目の前が真っ暗になった。

『 りが ごめんね。

前に 妻が手術するって言ってたけど 内臓に腫瘍ができてて この前の手術は

ガンになる前に切除しようってことだったんだ・・・

今日は 術後の傷の経過観察で 妻は病院に行ってた。

10日に 結果がわかるはずだった。

でも 今日 細胞検査の結果がわかって、ダメだった。

今後は臓器やリンパ節の切除 抗がん剤治療が待ってる。

これから先は妻の為に全部の愛情を注いでやりたいんだ。
りがとはこれで終わりにしたい。
突然でごめんね。


今もまだ信じられないけど事実なんだなぁ。
夢であって欲しいよ。 』

あーー なんてこと・・・・・・・

奥さんが ガンだなんて・・・・・・


すべて 合点がいった。

彼の奇妙な行動や落ち着かない様子、

聞こえ漏れてきた電話の話、

ベッドに座っている彼の後姿、

まっすぐに 走るように 帰って行った彼、

すべてが。

私たちが抱き合ってた時 

たった独りで その告知を聴いていた奥さん。

どれだけ 心細かっただろう。

不安で 不安で すがりたかったろうに 

すがる相手もなく たった独りで 受け止め

説明を聴くしかなかった奥さんに

私は 申し訳なかった。

ただただ 申し訳なくて 涙が止まらなかった。

自分たちが二人っきりで過ごした時間を すべて 奥さんに

返したかった。

畏れでいっぱいになる。

私は 彼の決断に同意するしかない。

彼にとって 一番大切な人は 奥さんなのだから。

これまでの別れたり くっついたりの恋愛ごっことは

違うのだ。

これが 真実で 現実 なんだ。

『大変だったね。

ショックだけど、そういう理由なら、しょうがないね、

むしろ、そういう選択をできない人は嫌かもしれません。


これからは 奥さんを 支えていってあげてくださいね。

あなたの一番大切な人だから。


今までありがとう。
すごく 楽しかった。 幸せでした!



身体に気をつけて 元気でね。
奥さまのこと 祈ってます。』

今もまだ ざわざわと 落ち着かない気持ちでいる。

私にできることは 奥さんの命、奥さんの全快、

彼と奥さんの平穏な幸せを祈ることだけ。

8年間 私は彼に支えられてきた。

ふらふらしてても いつも傍には 彼がいてくれていた。

幸せな8年だった。

彼には 感謝している。

もしも 彼が 奥さんの病気を知っていながら

私とも続けたい と言うような人だったら

私は 嫌になっていただろう。

彼は 奥さんの元に戻った。

これが 本来の姿なのだ。

奥さんは ガンになって 彼を取り戻した。

命がけで 取り戻した。

彼は 失いかけて初めて 一番大事なものは

何かを 知った。

この先のお二人のこと、奥さんのことを 

私は 祈り続けていきます。

ずっと ずっと

いつの間にか 正午になっていた。

私 「おなか すいた? なんか食べる?」

と 私が聞くと 彼は コンビニで買ってきたお菓子を

ぼりぼり 食べ始めた。

私 「コーヒーいれようか?」

彼 「いや いいよ」

ちょっと時間で 彼は一袋 たいらげていた。

え? なんか変?

今まで こんな食べ方 したことないのに?

奇妙な違和感があった。

彼は いつものように リラックスしてないように感じた。

おかしい? そう思った時

彼はスクっと立ち上がり 携帯の方へ。

彼 「電話が入ってる」

そう言って かけ直し始める。

こういうことは 何度かあった。

主に お仕事の話だった。

私は またか・・・と思い

お風呂場に行った。

ドアの隙間から 彼の声が漏れている。

「10日じゃなかったのか? 10日っていってたじゃないか・・・」

今でも この言葉が 耳に残っている。

電話が終わった。

ドアを開けたら 彼は ベッドに後ろ向きに座っている。

その姿が あまりにも弱弱しく 悲しげに見えた。

私 「帰らないといけないんでしょ?」

彼 「ごめん」

私 「ううん、いいよ。 お仕事? 大変だね。」

彼 「いや 仕事じゃないんだ・・・・」

私は 深く訊けなかった。

訊けるような空気ではなかった。

ただ 彼の思いつめたような顔に 胸騒ぎがした。

私たちは あわただしく タクシーに乗り 

駅まで急いだ。

タクシーの中でも 二人は無言だった。

手も繋がなかった。

顔も 見なかった。

乗降口まで 急いだ。

走るように 急いだ。

彼は 改札を抜ける前に

ごめん   と言う。

わたしは ううん いいのよ と返す。

そして そのまま まっすぐ消えて行った。

一度も振り返らず・・・・

手をふることもせず・・・・

まっすぐ 消えて行った。

わたしは 彼の姿が 見えなくなるまで 改札で見送るしかなかった。

もし もし この結末を知っていたのなら

私は 彼の後を追い 彼と一緒に 新幹線に乗っただろう。

彼の地に着くまでの3時間だけでよかったのだ。

一緒に 行って 話を聴いてあげれば よかった。

彼の話を 彼の気持ちを聴いてあげれば よかった。

いや しかし 彼は それを望まなかったかもしれない。

独りの時間が欲しかったかもしれない。

私と逢った今日の数時間を後悔しているだろう彼が 

私と一緒に彼の地までいくことなんか

嫌だったはずだもの。

しばらくすると 彼から メールが着た。

「今日は ごめん。 落ち着いたら 理由を話すよ。」

それだけだった。

私は 嫌な予感で胸騒ぎがした。

家に帰り 部屋で うずくまっていると

涙が あふれてくる。

なんでだろう?

なんの涙?

ただただ 不安だった。

真夜中 12時半・・・・・

彼から メールが着た。

2011年 1月 まだ別れて 数週間しかたっていないというのに

私は我慢できなくなってまた 彼に連絡してしまった。


彼は いつもの病気 と思っていてくれてたのか

すんなり 受け入れてくれた。


もう別れたくないと思った。


いつも ふらふらしたいた。


それでも 彼が居てくれたから、、、

私には 戻れる場所があると思っていたから、、、、

だから ふらふら してても 心の底では 安心していたのかもしれない。


3月 また逢おう  と約束した。


4月は 泊りで来る と彼は 約束してくれた。


3月の初め 彼からメールのメールで

奥さんが 手術しなくちゃいけないので 3月は来れないかもしれない

とあった。


私は そういうことなら 奥さんについといてあげて と送った。


しばらくして 退院日が 変わったので 大丈夫 というメールが着た。


私は 何も考えなかった。 

そっか たいしたことなかったんだ・・・よかった・・・逢える・・・・

安易に考えていた。

もっと ちゃんと 聴いておけばよかった と今でも悔やまれる。


彼は 約束通り 来てくれた。


いつものように いつものホテルへ向かい

私たちは 抱き合った。


何故だろう?


反応が激しいわたしのカラダ・・・・・


シーツは いつも以上に ぐっしょりと濡れていた。







年末 泊りで彼が来てくれた。



私たちは 普通のカップルみたいに 

キャナルシティをまわった。

私の夢だった。


普通のカップルみたいにデートする・・・夢が叶った。




これまで 男性とお付き合いしたのは 主人だけ。


若いころから 全然もてなくて

いつも 一人ぼっちで淋しかった。


そんな私を 主人は愛してくれた。

そして そんな私を 彼は愛してくれた。



ふらふらと彷徨うわたし。



やはり 主人とやり直そうと この日 決めていた。



別れの時間まで あと数時間の時

私は 意を決して 言った。



「別れたい・・・別れましょう」 と。



私の理由は もちろん 主人とやり直すこともあったが

経済的こともあった。

この先 全部 彼に負担がかかってくるのが

申し訳なかった。



彼は 悲しい目をして言った。



「お金のことは 心配いらないよ。

続けたいよ。」



力なく 私は首を横にふった。



彼は いつもの私の戯言と思ったのだろうか?

それとも 今度こそ 本当の別れと覚悟したのだろうか?



今となっては どちらでもいいことだけど。




私たちは 抱き合った。



最後のSEXと思いながら・・・・・ 哀しいSEXだった・・・・







主人の浮気が発覚したのを機に 私は彼と別れようと思った。
電話で いきさつを話し これからは 主人とやりなおしたいので
別れたいと・・・・・
案の定 彼は 別れたくない と言った。
私は 折れた。
やはり 彼も私には必要だと思った。
ずるい女。。。。。
主人には メールでさえ 辞めてもらったのに
わたしは まだ 彼と繋がっていたいと思っている。
彼 「頑張れ~」
電話口で 彼が励ましてくれた。
こんな風に エールを送るタイプの人ではない彼が
明るく 励ましてくれた。
その後 私は 狂ったかのように 彼との逢瀬を重ねて行った。
それは これから先の・・・
これから先の、私と彼の行く末が わかっていたからだろうか。 
この短い間に何度も肌を合わせた。
秋 私は3泊4日で旅行した。
そのうちの2日間 彼はわたしと同行してくれた。
ただの 安ビジネスホテルだったけど 楽しい時間だった。
誰も知っている人がいない という解放感で いつもよりも明るく過ごせた。
街中を散歩したり ウィンドゥショッピングしたり・・・・・
それでも 改札口で見送る度 ‘もうこれで逢えないかも’
そう思った。
JRの企画で 平日限定の格安切符が期間限定で売り出されていた。
それを使って 2回 彼のもとにも 行った。
平日だから 夜だけの短い逢瀬だったが 幸せだった。
彼も 2回来てくれた。
この秋から冬 私たちは なにかにうごかされているかのように
何度も何度も 逢った。