山の奥深い、静かな場所。

本殿はそこにあった。


空から舞い降りて、地上を見ると。

コクリコクリと、寝ている人間が居た。


...ゴン

「いってぇえええええ」

(うわ、痛そう、殴られてる...)

木に隠れながらこっそりと覗く


「お前はまた仕事をサボって何やってるんだ!早くお勤めを済ませろ」


(...あら?顔がそっくりなのに全然違うのね)


眠っていた宮司の周りで一緒に寝ていた猫達もそろそろ活動するかと動き出す。


(...なんだろう。ずっと見てたくなる人だわ)


あの日、その神社を見つけてから、私は何故か通う様になった。


いつ来ても眠ってる...

とても可愛いのだけれど...


...ゴン

「ぅあああああああ」

(今日も痛そう...)


そんな事を繰り返してる日々。


ある日、聞こえてしまった。。。

あの宮司のお見合いが決まった事を。


(なんだか苦しいなぁ...)

それがなんだかも分からずに...そもそも人間は皆お見合いとやらをして、暮らす生き物だし...


「もういい加減地上に遊びにいくのはやめなさい」

「地上にも野蛮な人もいるのですよ?」

「ちゃんと自覚を持って...」


...ここは退屈だなぁ。今は何してるんだろう...

空の青さがだけが何故か気持ちを憂鬱にさせた


その日初めて夜外に飛び出して

夜空の中舞い降りた


月がとても綺麗な夜だった


木の上でいつもの様に見渡す...


あれ...


「...」

何も声を出す訳でもないが、何だか落ち込んでるように見える。お見合いというものは難しいものなのかな?

私にはよく分からないけど


ただ、宮司の、横顔から目を離せなくなって...


...うわぁwwww


...落ちる


(...あれ?)


「...大丈夫ですか?...怪我は?」


(ちょ...抱えられてるんですけど、これじゃ飛び立てないじゃない!)


頭をブンブン振るぐらいしか出来ず、早く下ろしてもらいたい...なんか恥ずかしいから


「...このまま、聞いて貰えませんか?自分の独り言です。この土地を離れなければならなくなりました。まぁ、ここを、任せられるのは兄上ですから」


(なんだか寂しそう...)


「海近い大きな神社だとか...そちらの方とご縁があり...この愛していた土地を離れると思うと切なくて」


(この土地が好きだったのね...)


「実は貴方がいらしてたの知ってたんです。見える人間ですから。気が付かないとでも?」


(あわわわわわわわ)


しばらくの沈黙のあと。


「まぁ、この土地に戻って来れないと言う訳ではないのですが何故か離れがたく。どうしてでしょうね」


宮司はやっと自分を地上に下ろした


(...あれ?なんか寂しい?何これ)


「明日こちらの土地を離れます。木から落ちてくるとは思いませんでしたが、最後にこうしてお話出来て良かったです」


(人間ってどうしてこんなにも悲しく笑うのだろう...)


綺麗な満月の夜だった。。。


それから特に地上に遊びに行く事もなくなり

口うるさく言われることもなくなった

でも何故か心に何かがひっかかっていた

それが今の自分にはなんなのか分からなかった



「分からないならもう一度会いにいってみたら?」

そう言われても、何かが怖くて行けない...


そんなある日

今日は海が荒れてるわね...

そんな日だった


なんだか嫌な予感がした

...

....


........!!!危ない


急いで地上に降りた

神社は高波で呑まれていた

あの宮司はどこ?

...いない


....波にさらわれたの?


急いで探しにいく


!!!居た


私は生まれつき水が怖かった

でも、そんなこと言ってられない

そして海は...


「いいですか?私達は1度海に足を踏み込めば...」


、、、


沈んでいく宮司を見つけた。

唇を重ねて酸素を送る。


出来た。顔色も戻ってきた。

これで岸の方へ向かって。


波が味方をしてくれてあっという間に岸の上に大柄な彼は横たわった...

...


..

..

でももうここから彼に触れる事が私には出来ない。


私達は海に1度落ちたら


そのまま底に沈む運命だから。



生きてる彼を確認して。


底からの迎えに応えた


その迎えはこういった。


「安心していい、あの人間も家族も無事だ。」


私はそれだけ聞ければ充分だった



....?


どこからともなく流れてくるものがあった

締め付けられる苦しさと


離れたくない...

あぁ...この感情はなんていうの?


もっと教えを聞いていたらわかっていたのに

このまま海の底に行かなければならないの?



......

....

..


それが私天女の初恋だった