TENDERLY ~テンダリー~ | 美肌ジャズタイム

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『ジャズをもっと身近に』をモットーに、歌とフルートで活動している日本の女性ジャズ歌手若生りえのブログ。ジャズの歌詞について語っています。

 

電球ここでの解釈は、私、若生りえがあくまでも歌手として歌わせて頂く際の、一つの歌詞の世界であり「こんな気持ちで歌わせて頂いております」という一つの意思表示です。この世界の認識を押し付けたりするものでもありません。あくまでもご参考までに。また文章をお使いになる場合はお手数ですが、ひと言ブログへコメント頂ければ幸いですSAYUうふふ

 

TENDERLY ~ テンダリー ~
1947年
作詞/ジャック・ローレンス Jack Lawrence
作曲/ウォルター・グロス Walter gross

 

先日の二つのブログ、

8/21『恋人記念日に聴くジャズ』

8/22楽譜『左上の指示』の威力!

で取り上げさせて頂きました有名なジャズスタンダード

『Tenderly~テンダリー~』をご紹介します!

 

重複する内容があるかもしれませんが、

どうぞご了承くださいませ。

 

【ピアニストのグロス。作詞曲家のローレンス】

 

美しい3拍子のバラードで知られるこの『テンダリー』。

「優しく、やわらかく」などの意味を持つこのタイトルからも

おわかりのように、ゆったりとしたサラ・ボーンや

ローズマリー・クルーニー(甥はあのジョージ・クルーニー)

の名唱でも有名で、今日でも有名なバラードとして

歌い継がれています。


作曲したウォルター・グロスは、ピアニスト、作編曲家、

CBSラジオの専属ピアニスト、自身のオーケストラを率いる

など多才で、そのピアノの腕前は

10歳で初リサイタルをするほど!!

当時人気の楽団『ポール・ホワイトマン』や

『トミー・ドーシー』でも活躍した人です。

 

一方、作詞したジャック・ローレンス

作詞以外にも歌や作曲をする人で、

高校生くらいの時にはもうすでに歌を書いていたそう。


「Play, Fiddle, Play」という曲で実力を認められ、

20歳という若さでASCAP(米国作曲家作詞家出版家教会)の

会員になりました。


『I wish you love』のシャルル・トルネと仕事をしたり、

『All or nothing at all』『beyond the sea』なども彼の作品です。

 

【英単語と音楽用語の2つの意味の『テンダリー』】

 

Tenderly(テンダリー)という言葉は、

英単語で「やさしく」という意味であると同時に

音楽用語で「やさしい雰囲気で演奏せよ」

という意味でもあるのです。

 

この曲は最初無題のままメロディーだけが書かれ、

あとから作詞家によって曲名と歌詞が付けられ、

スタンダードになったという経緯があります。

 

しかし、この曲を作ったウォルター・グロスという人

とても気難しい人で、作詞をしたジャック・ローレンス

出来あがった歌詞をみせると、

「なんだ?曲名がテンダリーだと?

そんなテンダリーなんて曲名、まるで

楽譜の最初左上に書かれる音楽用語みたいで

おかしいじゃないか!」

と最初のころは全く気にいらない様子だったそうです。

それがなんとか最後にはめでたく初演までこぎつけ、

有名なスタンダードになった、という逸話があるんです。

 

【楽譜の威力】

 

今日は、楽譜の基本中の基本の読み方である

『楽譜の一番左上に書いてある、作曲家からの指示』と

『名曲テンダリーが出来た経緯』

について書かせて頂きますハート

 

まず、そもそも。

 

クラシック、ジャズ、ロックなど、

ジャンルに関係なく共通していることは

世界共通の楽譜の書き方・読み方がある。

だから、それを知っていると

初めての曲でも、演奏技術があれば

その曲を演奏できるんですね。

 

私たちが今日でもバッハやモーツァルトの曲を

演奏会で聴くことができるのも、

楽譜の読み書きを勉強した音楽家たちが

演奏してくれるから、その時代の音楽を

聴くことができるわけです。

 

少し話が外れますが、オーケストラの指揮者。

よく、あの指揮者は演奏しないで

指揮棒を振っているだけじゃないの?

いったい何をやっているの?

そもそも必要なの?

と思われるかもしれませんが、

指揮者というのはいわば

楽譜のスペシャリストなんですね。

 

オーケストラというと、バイオリンやビオラ、

チェロやコントラバス、打楽器、クラリネット、

トランペットなどなどたくさんの楽器がありますが、

楽器によってドレミをあらわす楽譜の表記が違うのを

いっぺんに素早く読めてしまったり、

あまり使わない音楽用語も頭の中に入っていて、

とにかく演奏者よりも、楽譜の読み書きを

た~くさん知っているプロなんです。

 

それで、下の写真は音楽辞典なのですが。

 

一番上にアンダンテ【歩くように】と書いてあります

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この【歩くように】という言葉をどうとらえるか?

 

そんなことを、調べたり、考えたりして、

「よし!今度の演奏会ではこのくらいの速さで演奏しよう!」

と速度を決めたりするのが指揮者なのです。

 

どういうことかというと。

 

歩く速さっていう指示は、抽象的ですよね?

 

日本人も当り前のように洋服を着るようになった文化は

100年も経っていませんよね?

 

では、質問です。

 

着物を着て草履で走るのと、

Tシャツにズボンでスニーカーで走るのと、

どちらが走りやすく、速く走れますか?

 

答えは明確ですよね?後者のズボンです。

 

それではもう一つ。

 

マリー・アントワネットが着ていたような

ドレスやウィッグ、ハイヒール、日傘で走るのと

Tシャツにズボンでスニーカーで走るのと、

どちらが走りやすく、速く走れますか?

 

答えは明確ですよね?やはり後者のズボンです。

 

このように、指揮者の人たちは

その時代の色んなこと、文化や時代背景を

調べたり想像したりして、できるだけ

「では、バッハのこの曲を書いた時代の

アンダンテ=歩く速さは

どのくらいの速さだったのだろう?」

ということを、その時代の服装や文化など、

それぞれの指揮者がいろんな調べ方や解釈で

作曲者が伝えたかったことを掘り下げて、

バッハがいない今、バッハが伝えたかったことを

その指揮者なりの解釈で演奏者たちに伝える

という重要な役割をしているのです。

 

で、テンダリーです。

 

実は英単語ですが、音楽用語でもあるんです。

次の写真も音楽用語辞典から。

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観て頂くとわかりますが、イタリア語(伊) 、英語(英)、

フランス語(仏)、ドイツ語(独)など、音楽用語も

言語は作曲家の数だけ様々。

 

ジャズはアメリカの音楽なので、

だいたい英語での指示が主ですが、

ピアノなどクラシックに触れた経験があると

英語以外の有名な音楽用語は知っていたりします。

 

このテンダリーを作曲したウォルター・グロスという人は

とっても気難しい人だったそうで、無題で作ったこの曲を、

ジャズの名曲『All or nothing at all』を作詞した、

当時まだ無名ながらも注目株だった

作詞家ジャック・ローレンスが自ら

「この作詞をさせてほしい。」とウォルター・グロスに

アプローチしたところ、『しぶしぶ』といった感じで

その楽譜を渡したそうです。

 

ウォルター・グロスは、歌詞を付けられることに対して、

作曲家として、もともと嫌悪感を持っていたようです。

 

それからまもなく歌詞が出来あがり、その気難しい

作曲者のウォルター・グロスに歌詞を見せたところ、

「Tenderlyなんてタイトルは音楽用語みたいでおかしい!」

と言って、最初は不満をあらわにしていたそうです。

 

しかし、そう言われてから作詞したジャック・ローレンスも

出版社をみつけ、サラ・ヴォーンの歌で初録音をし

まずは小ヒットしたそうです。

 

その後、昨夜ご紹介させて頂いたブログの

ローズマリー・クルーニーが大ヒットさせた、ということでした。

 

【『楽譜』の本当の役割とは?】

 

楽譜がないと、モーツァルトなどの演奏を

忠実に再現することはできません。

つまり、楽譜がないことには、基本的に

演奏家はきちんと演奏できないのです。

 

そんな楽譜が重要な演奏家ですが、

演奏家が楽譜をみて真先に知りたいことは

いくつかあります。

 

演奏する速さは、速い?遅い?中くらい?

 

リズムは、スウィング?サンバ?ワルツ?

 

拍子は、3拍子?4拍子?5拍子?

 

雰囲気は、明るい?悲しい?ロマンティックな感じ?

 

演奏する調(Key)は何調?

 

などを、一番に指示してほしいのですが、

それが楽譜の一番最初、左上に書かれています。

 

因みにこの曲『テンダリー』の楽譜には、

音楽用語としても英単語としても、今では有名な曲なので、

わざわざ指示として書いてあるものはありませんでした。

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でも! 

 

 オールディーズとしても有名な『TAMMY(タミー)』の

楽譜左上には、『Slowly Tenderly(ゆったりとやさしく)』

との表記がありました。

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 因みに、チム・チム・チェリーの左上の指示は?

 

なるほど!『Lightly』つまり、軽い雰囲気で、ってことか!

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ハワイの結婚式の歌は『Slowly with much warmth』

ゆったりと幸福に満ちたあたたかい感じというところかな?

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知らない曲でも、タイトルにハワイアン・パラダイスとあって、

『Slowly and dreaming』

ゆったりと幻想的な夢のような感じ、とわかる。

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 因みにクラシック系の楽譜は?

 

有名なフルートの旋律で

アルルの女より『メヌエット』を例にすると

Andantino quasi Allegrettoで 

アンダンティーノ(アンダンテより少し速い)

クアジ(ほとんど~のように、おおよそ)

アレグレット(アレグロよりは少し遅い)

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と読むのですが、

アンダンテよりは少し速いけどアレグロほど速くなく演奏せよ。

という、数字ではなく、非常に曖昧な指示が多いのです。

 

だから楽譜のスペシャリストの指揮者の力が

クラシックでは必要なのですね。

 

ということで、最後に私がオリジナルを書くときは、

♩=数字での指示と、言葉での指示と、両方書いてます。

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ちなみに『affettuoso(アッフェトゥオーソ)』というのは

イタリア語の音楽用語の一つで『やさしく』という意味。

 

下の『やさしく語りかけるように』という指示は、

正式な音楽用語にはありません(と思います)が、

完全にこの曲の私の大切にしているメッセージとして

演奏者に向けて書いたものです。

 

『やさしく』でも伝わるのですが、さらに

『語りかけるように』と指示することで

そのニュアンスにこだわってますよ~!

と思い入れのようなものを伝えているのです。


【さぁ、誰を聴く?名演がたくさん!】


これも歌っていない人はいないのですが、

今回は女性ボーカルからあげると、

サラ・ボーンビリ-・ホリデイアニタ・オデイ

エラ&サッチモでも。


男性では、フランク・シナトラナット・キング・コール

ジョニー・ハートマンビリー・エクスタイントニー・ベネット

ジョニー・マティスなどなど。


あとはなんといっても、

オスカー・ピーターソンのピアノも。


まずは女性ボーカルで聴いていただきたいです。

それでは、ゆったり気分で
『テンダリー』です

どうぞっ!!

 

《英語歌詞》

The evening breeze caressed the trees tenderly

The trembling trees embraced the breeze tenderly

Then you and I came wandering by

And lost in a sigh were we


The shore was kissed by sea and mist tenderly

I can’t forget how two hearts met breathlessly

Your arms opened wide and closed me inside

You took my lips, you took my love so tenderly

夜風が 木々の梢を優しくなでた・・・そっと

木々の梢は 答えるかのように

夜風を抱き歌った・・・やわらかく

梢のラブソングを聴きながら歩いていたあの夜に

あなたと私は出会い 

その素敵な出会いに 二人は酔いしれた


恋人同士みたいに 岸辺に海がキスをすると

霞がかかったわ・・・ふんわりと

忘れられない 堰を切ったように

二人の心が激しく触れ合ったあの瞬間を

あなたの広い腕の中にしっかりと抱かれ

あなたは私の唇と心をうばった 

そっと やさしく・・・