内向きな日本の若者
1980年代、日本から海外の大学や大学院などへの長期留学生は1万人台にとどまっていた。その後、2008年頃には8万人程度まで増加したが、現在では大幅に減少し、再び1万人台に戻っているという。私が海外の大学院に留学したのは1980年代末である。当時はインターネットもなく、留学に関する情報も限られていた。終身雇用が当たり前だった時代で、会社や役所に在職中の留学は今でもそこそこいるだろうが、会社を辞めて海外留学をする人は極めて少数派だった。会社の上司たちからは「新人類は何を考えてるのかわからない」と言われたのをよく覚えている。本人は「まあ、何とかなるだろう」と楽観的に考えていた。現在の若者は、海外に出て「他流試合」を経験して能力を高めるよりも、少子化によって競争が緩和された国内で生き残る方が合理的だと感じているのかもしれない。日本の大学の教員からも、今は若手研究者が海外にでたらがないという話をよく聞く。韓国では長期留学生が5万人弱とされ、日本との差は大きい。この違いが、将来的には両国の技術力や経済力の差にもつながる可能性がある。
日本型学歴社会の終焉
学力や能力そのものではなく、どの大学を卒業したかによって人を評価する日本型の学歴社会が終わるかどうかは、日本の場合、企業の採用・人事慣行に大きく左右される。現状では、大企業が新卒の学部卒を一括して採用し、入社後のキャリアを社内で形成する仕組みを維持している限り、大きく変わらない可能性が高いだろう。
期待は中小企業?
もっとも、変化の契機は中小企業にあるのかもしれない。人手不足によって新卒人材の奪い合いが生じている一方、若年層の給与は企業間で大きな差がつきにくい。しかし、中高年になると、大企業では給与水準が大きく下落するのに対し、中規模企業では必ずしもそうならない傾向があるという。そうであれば、中小・中堅企業では、社員のリスキリングに対するインセンティブや、能力・成果を重視する人事制度が強まる可能性がある。
同氏の別の著書では、中規模企業の方が大企業より生産性が高いことを示す興味深いデータも紹介されていた。大企業も終身雇用を必ずしも保障しなくなっている現在、こうした労働市場の変化が、日本型学歴社会を内側から変えていく可能性がある。
米国では転職経験者が9割以上、その他の先進国でも7割以上であるのに対し、日本では6割を下回る。特に大企業では転職経験者が少ないことが想像される。一方、中小企業では転職経験者が比較的多い。そう考えると、能力開発への意欲や必要性は、むしろ中小企業の社員の方が高い場合もあるだろう。中小企業は、即戦力を求める採用、ジョブ型雇用、成果主義など、欧米型の実力主義とも相性がよい。また、転職や異業種経験など、さまざまなキャリアを経た多様な人材も、中小企業の方が受け入れやすいのかもしれない。日本型学歴社会の変化は、大学入試や教育制度そのものよりも、こうした企業側の人材評価や労働市場の変化から始まる可能性がある。