アベノミクスに批判的であった識者だけでなく、推進した当事者や関係者の意見も含まれており、非常に参考になった。

参考になったのは以下のポイントである。


国際金融のトリレンマ
独立した金融政策、安定した為替市場、自由な資本移動の3つは同時には成立しない。途上国は2つのために自由な資本移動を諦める。日本は利下げの金融政策を維持するために為替を犠牲にした。


パニックの引き金シナリオ
金利上昇の局面で株価が暴落し、日銀が保有するETFの含み益が喪失。さらに日銀当座預金の利払いによって、日銀が債務超過に陥る可能性。


アベノミクスの実態
アベノミクスは金融緩和、財政出動、成長戦略の3本柱で進められたが、結果的には金融緩和のみが実施された。しかし、本音では、2%のインフレ率を達成できない状況が続き、物価に対する不満が出なかったため、財政も放漫経営が可能になった。GDP600兆円、出生率1.8%、介護離職ゼロを目指す「新3本の矢」を打ち出したが、これはただのアドバルーンで、その後ほとんど言及されることはなかった。アベノミクスのもたらしたのは安倍氏の政治的勝利に過ぎなかったと言える。


第3の矢の経済政策の限界
規制緩和が効果を上げるのは、供給側に規制がかかっている場合に限られる。日本では賃金が低く需要が不足しているため、供給側を強化してもデフレを拡大するだけである。保守とは、国家を安定的に維持することが主眼であるはずだが、安倍氏は財政政策で高リスクな国家を作り上げた。


経済成長の停滞
安倍政権前、日本の一人当たりGDPは世界14位だったが、10年後には30位に転落した。成長できなかった原因は、円高が進み、海外シフトが主流となったことにより、国内への投資が減少し、さらに人口減少が拍車をかけたからだ。株主も短期的な利益を追求した結果、国内経済は停滞した。限界生産力の低下も進んでいる。スマホや自動車のイノベーションは、価値を生み出すには限界がある。日本は明治維新以降、人口増加が世界で最も早かったが、現在では韓国がその速度を超えている。しかし、韓国も今後は日本と同じように停滞するだろう。いずれの国も移民を増やさない限り、人口減少は止まらない。日本は移民を受け入れないため人口減が加速する。


人口減少と限界生産性の低下を考えると、最終的にはどの国も1人当たりのGDPは40,000~50,000ドル程度に収束するだろう。クウェートやスウェーデンなどは1人当たりのGDPが60,000~70,000ドルに達しているが、いずれも人口が非常に少ない。日本も例えば愛知県に自動車産業を集約し、独立国にして人口1,000万人にすれば、一人当たりのGDPは60,000ドルを超えるだろう。しかし、人口の多いインドや中国はそのレベルに到達することはない。つまり、一人当たりのGDPはあまり意味がなく、経済成長が少なくても、利益が均等に分配される社会を考えるべきだ。


アベノミクスの誤り
アベノミクスの最大の誤りは、需要を増やすことを考えず、供給の強化ばかりを進めたことにある。その結果、むしろデフレが進行した。かつては公共事業があり、交通インフラの整備などが進んだが、現在は有意義な公共事業が著しく減少しており、やっても意味のないものが多い。そうであれば、仕事をせずにお金を配った方が良かったかもしれない。需要を増やす方法について徹底的に議論し、政策化することが必要だった。


日本の世帯は2000兆円もため込んでおり、円の価値に疑問を抱かない限り、資源価格の低下などで経常収支が均衡すれば、再び円高に振れる可能性が高い。いずれにしても、政治的にはお金をばら撒くことで延命が進むが、経済的には悪化していく。円の価値に疑問を持つ人が出てきた時が危険な状態となる。


供給側の経済学と需要の問題
供給側の経済学は「供給が需要を生む」と考えているが、実際には人々は豊かになると物欲が減少するため、供給を増やしても需要は伸びない。むしろ、金融資産が膨張するだけである。


貧富の差と再分配の必要性
貧富の差が拡大する理由の一つは、資産選好(お金を持っている人は倹約思考になり、持っていない人は浪費傾向になる)にある。したがって、政府は積極的に公平性を高めるために再分配政策を進める必要がある。社会主義的な政策も一つの選択肢だが、逆コースでさらに極端な貧富の差が拡大する可能性も高い。人々が安心して物を買うようになるためには、社会保障が充実し、余計な支出がかからないという安心感が必要だ。


生産性向上の逆効果
生産性を上げることは、現在ではむしろ逆効果になる可能性がある。生産が増えても需要が増えなければ、結果的に雇用が減少するだけである。