おなかの張りや激しい嘔吐(おうと)に見舞われた千葉県の女性(44)は2010年10月、夜間の当番病院で、がんの疑いがあると診断された。紹介された千葉県がんセンター消化器外科の検査でも病名は確定せず、2週間後、激しい腹痛で緊急入院した。
検査結果を待つ間に腹水が急激に増え、おなかが妊婦のように膨れあがった。「破裂しそう。なんとかして」。仰向けで寝るのも苦しかった。
腫瘍血液内科も加わり、抜き取った腹水や骨髄などを調べた結果、血液のがん「急性骨髄性白血病」と分かった。異常な白血球が増えているだけでなく、腸の周りなどにもがん細胞の固まりができたため、腸閉塞(へいそく)の腹痛や吐き気が起きていた。
「余命を宣告されるの?」
白血病に対して「死」のイメージが強かった女性は身構えたが、腫瘍血液内科の山田修平医師(36)は「明日から、抗がん剤治療を始めましょう」と説明した。その落ち着きぶりに安心し、小学生と幼稚園の2人の息子の顔が浮かんだ。「あの子たちのために、がんばらなくちゃ」と勇気がわいた。
抗がん剤の点滴は1週間続いた。その直後に、吐き気などの副作用が始まった。抗がん剤が粘膜を攻撃するため、ひどい下痢にもなり、個室の中のトイレに何度も駆け込んだ。覚悟はしていたが、食事もほとんど取れず、ベッドで起き上がること自体がつらかった。
それでも、抗がん剤で減った白血球が増え始めると、体調が少し良くなった。そして、低い棚に置いた服を取ろうとかがんだ時、自力で立てなくなっていることに気づいた。
ほとんど寝たきりで過ごす間に、手足の筋力や心肺機能などが衰える「廃用(はいよう)症候群」となり、リハビリが必要な状態になっていた。ベッドにつかまり、時間をかけてやっと立ち上がったものの、「これはまずい。病気が治っても、このままでは家事ができない」と新たな危機感が生まれた。
12月に入り、夫が息子を連れてきた。次男はうれしそうに飛びついてきたが、長男はうつむいたまま泣くばかり。
「早く、元の通りのお母さんに戻るからね」。言いかけた言葉は、涙で声にならなかった。