冠動脈バイパス手術を受けた大阪府茨木市の畝狭(うねさ)恒雄さん(77)は、国立循環器病研究センターを2011年2月に退院した直後は心臓リハビリになかなか身が入らなかった。
週1~2回、センターに通院した。それがきっかけになって、徐々に運動する習慣ができていった。
退院前の心肺運動負荷試験(CPX)で、運動中の心拍数の目標は毎分92に決まっていた。自宅では心拍数計と歩数計をつけて、自分で1日の歩数の上限を5千~6千歩にして近所の河原を歩くことにした。
早く目標の心拍数に上げよう。そう思いながら急ピッチで歩いていると、頭がクラクラした。そんなとき、リハビリ室の健康運動指導士、亀崎一郎(かめさき・いちろう)さん(43)が教えてくれた呼吸法を思い出した。「吸って吐いて吐いて」。その通りやってみると、呼吸が楽になった。
通院でのリハビリは、一人でする自転車こぎや歩行といった運動に、エアロビクスが加わった。手術で胸骨を切り開いていたので、それまで上半身をひねる運動は控えるように言われていた。3月が終わるころ、体力がついたためか、みんなと一緒に運動するのが楽しくなっていた。毎日の食事が待ち遠しい。
センターでの心臓リハビリのプログラムに5カ月間参加した。運動と並行して自由参加で開く、心臓病の原因や日常生活の注意事項などの講義にも妻と一緒に通った。みそ汁は具を多く汁を少なくして塩分を控えるなど、栄養士からの指導も家庭の食事にとり入れた。
プログラムは6月末に終わり、これまで学んだ運動習慣や食生活を続ける「維持期のリハビリ」という段階になった。歩行はそれからも続けた。
夏の終わり、いつもの散歩道でキノコの群生を見つけた。ささいな自然の変化に気づく心の余裕が生まれていた。若いときは「人生は太く短く」とかっこつけてきたが、「細く長~く」という気持ちに変わった。
秋には山歩きも再開。三重県の高原で、14キロの区間を7時間かけて歩き切った。心臓リハビリのおかげで、ここまで来られたと思う。今年夏には、北アルプスの2千メートル級の山に挑戦する計画でいる。