朝日新聞アピタルニユースの6月5日記事より抜粋

 大動脈解離は、心臓から全身に血液を送る大動脈の壁に傷口ができ、そこから壁の内部に血液が流れ込み、裂けてしまう病気。裂けた「すき間」に血液が流れ続けると、様々な臓器に血液が通わなくなることがある。すき間が膨らんだこぶが破裂しても、命にかかわる。


 日本胸部外科学会によると2008年の手術数は約5千件で、年々増えている。男女とも70代が発症のピークで、高血圧などで動脈硬化が進み、もろくなった血管壁が裂ける例が多い。40歳以下で発症する場合、「マルファン症候群」や「ロイス・ディーツ症候群」など、遺伝子変異によって血管壁が弱くなる病気が考えられる。


 連載で紹介した女性のように、妊娠をきっかけに発症する場合は、遺伝子変異による病気も考えられる。


 「親戚に大動脈の病気が多いといった心当たりがあれば、できれば子どものうちに大動脈の検査をし、予防策を医師と相談してほしい」と東京医科大病院の荻野均(おぎの・ひとし)教授(心臓血管外科)はいう。


 大動脈解離の典型的な症状は、大動脈が裂ける際の胸や背中の激しい痛みだ。ただ、痛みのないケースも約6%ある。裂けた場所によって心筋梗塞(こうそく)や脚のまひ、腹痛など様々な合併症も起きる。


 解離の場所は、超音波やCT検査などでわかる。心臓に近い上行(じょうこう)大動脈に解離があれば、緊急手術をすることが多い。血管壁の破裂や心不全につながりやすいためだ。緊急手術を受けて死亡する率は約13%で、欧米の半分という。


 一方、上行大動脈に解離がない場合、薬で血圧や心拍数を安定させ、血管内のすき間が広がらないようにするのが基本。定期的に大動脈の直径を確認し、本来の20~30ミリの倍近い約50ミリに拡大した場合、人工血管に換える手術などを検討する。


 いずれにしても、大事なのは早い確定診断だ。大動脈解離の死亡率は発症後1時間ごとに1~2%ずつ増える。「治療開始までの時間をいかに短くできるかがカギ」と、日本循環器学会など7学会合同の「診療ガイドライン」作成班を束ねた高本眞一(たかもと・しんいち)・三井記念病院長はいう。(佐藤久恵)