太い動脈に炎症が起きる原因不明の難病「高安病」と診断された名古屋市のマユミさん(38)は2000年1月、藤田保健衛生大病院(愛知県豊明市)に入院した。「死に至ることもある」という説明を聞き、不安でたまらなくなった。
「急に死んじゃうんですか。悪化のスピードは?」。数日後、意を決してリウマチ・感染症内科の担当医、加藤賢一さん(51)に相談した。すると「いやいや、急に悪化はしません。きちんとステロイド薬で病状をコントロールできます」と、明るい声で返ってきた。
加藤さんは「ただ、副作用で食欲が強くなり、顔がむくむ可能性が」と説明を続けたのだが、「すぐ死ぬわけではない」と聞いて安心したマユミさんの頭にはあまり残らなかった。
早速、1日20ミリグラムのステロイド薬を飲み始めた。体調の変化は感じなかったが、炎症の程度を示すCRP値はみるみるうちに下がった。2月3日に退院し、通院しながらステロイド薬の量を減らしていくことになった。ところが、退院祝いで出かけた2泊3日の温泉旅行で、5キロ太った。
「うわっ、これか」。ステロイド薬の副作用の説明を思い出し、「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や白内障のリスクが高くなる」という別の副作用も心配になった。
ご飯にコンニャクを混ぜ、牛肉の代わりに鶏肉にし、野菜の量を増やしたが、体重は戻らなかった。むくんだ顔は「ムーンフェース」と呼ばれる典型的な丸みを帯びた。
ステロイド薬を減らせば副作用は軽くなる。しかし、4~5カ月かけて1日10ミリグラムほどにやっと減らせたと思うと、炎症がまたぶり返し、元の20ミリグラムに戻す――。そんな繰り返しだった。
炎症が再燃すると体がだるくなり、「絶対、薬を減らす」というプレッシャーも上乗せされて、調子が悪くなる。
病気がわかってすぐに銀行を辞めたが、家にいると病気のことばかり考えてしまう。夫(42)が帰宅するのを待ちかまえて「また薬が増えた。太る!」と、当たり散らした。
「社会」との接点を求め、大学や市役所の事務のアルバイトを始めた。