朝日新聞アピタルニユースの5月11日記事より抜粋

 2年前の7月、左手に力が入らない不調に気づいた川崎市の嶋田敏昭さん(65)は、テレビの健康番組を見て脳梗塞(こうそく)を疑った。かかりつけ医の勧めで近所の病院を受診。MRI検査を受け、次の診察に備えていた。


 7月22日の午前中。ひざのリハビリをしていた近所の整骨院で、何げなく手の指を1本ずつ動かしてみた。しかし、相変わらず左手はうまく握ったり開いたりできない。


 嶋田さんの様子を見て、整骨院の院長は「病院、ちょっと急いだ方がいいよ」と心配そうに言った。


 整骨院から家に帰った。昼食を済ませ、居間でテレビを見るために座椅子を引っ張り出した瞬間だった。右目のまぶたが突然下がり、目がふさがってしまった。


 「このまま目が見えなくなってしまうんだろうか」。あせったものの、2分ほどじっとしていると、まぶたがパッとあいた。「よかった」と胸をなで下ろし、その日はいつもより早めに寝た。


 翌日、クリニックで受けたMRI検査の結果を聞きに、近所の病院に行った。脳神経外科の医師は画像を見ながら「軽い脳梗塞の跡があります」と説明した。確かに2カ所、白くポツンとそれらしいものが見えた。


 医師はさっそく、2週間ぐらいの入院を勧めた。嶋田さんは一人暮らし。入院中は食事の心配もしなくていい。このときは「夏休みにちょうどいいかな」と、気楽に考えていた。


 入院中は毎日、血栓ができないようにする薬の点滴を受けた。手は相変わらずで、よくならなかったが、予定通りに8月6日に退院した。


 お盆の時期には、地元の日枝神社で3日間の祭りが開かれる。嶋田さんは例年通りにみこしを担ぎ、昼から酒を飲んではしゃいでいた。


 みこしの前で仲間と一緒に、記念写真を撮影したときだった。左手で体を支え、あぐらの姿勢から立ち上がろうとしたが、力が入らない。仕方なく右手で支えて体を起こし、その場をやり過ごした。


 翌日からは左手にほとんど力が入らなくなった。「これはさすがにおかしい」。8月18日、再び入院することにした。