【3 レーザー治療ですっきり】
30年以上前から下肢静脈瘤(りゅう)に悩んでいた茨城県常総市の大貫ミサ子さん(64)は昨年9月、テレビで見たレーザー治療に関心を持ち、かかりつけ医から紹介を受けた銀座七丁目クリニック(東京都中央区)を訪れた。大貫さんを診た医師の金子健二郎さん(35)は「手術は可能」と、すぐに予定を入れた。
最初に症状の重い右足手術が、昨年10月28日に行われた。ひざ下の表面にある静脈が動かないように局所麻酔をして、レーザーを出す細い管を静脈に入れる。1センチあたり7秒間、レーザーをあてて血管を焼いていく。長さ約20センチの静脈の治療に、15分程度かかった。
治療はこれで終わらなかった。さらに、レーザー治療では取りきれないふくらはぎのこぶを取り除く作業が続く。皮膚に切り込みを入れ、小さなさじのような器具で静脈の中にあるこぶを探り、別の器具でつまんで抜く。約30分ほどかけて、いくつものこぶを丁寧に抜き取り、50分ほどで治療を終えた。
治療の翌日と1週間後に受けた経過観察では順調と診断され、治療効果を劇的に感じた。
毎朝、パンパンにむくんでいた右足に、しわが寄っていた。「信じられない」。興奮が冷めず、常総市に戻って桜橋クリニック院長の鈴木旦麿さん(51)に報告した。
左足も楽になりたくて、今年2月に再びレーザー治療を受けた。この日は、慈恵医大血管外科教授の大木隆生さん(49)が治療を担当した。
両足のむくみが、30年ぶりに解消された。朝起きて自分の足を見ると「こんなに細かったかしら」と、いまだに感慨深い。
工場長を務める豆腐工場では、後進を育てながら、週5日出勤する。1日8時間の立ち仕事は、椅子の上で正座をしたり、床にぺたりと座り込んだりして、圧迫しないと耐えられないほど足がだるく、むくんだが、格段に足が軽くなった。
3人の息子は独立し、フランス、豪州、東京と離れて暮らす。近くに頼れる親族もいないため、足腰を丈夫にして、一日でも長く健康で過ごしたいと思う。今回、レーザーで下肢静脈瘤が治療できたことで、まだまだ元気で動ける。そう自信が持てるようになってきた。
【4 35年間 ついに限界】
ふくらはぎの上部やひざの裏にゴツゴツと浮き上がって消えない青いこぶ。福島県二本松市の野地扶美子(のぢふみこ)さん(60)は、2人目を出産した35年前から足の「ボコボコ」に悩んできた。
痛みはなく、医者に行くほどではないと考えていた。だがとにかく、見た目が悪かった。同居中の義父母らの目が気になり、家の中でもひざ下が見える服は着られなかった。礼服はパンツで、結婚式に呼ばれたときはロングスカートで通した。
当時、家では養蚕を営んでいた。春から秋はカイコの世話などで忙しく、農閑期の冬場は派遣社員として近くの電機部品組み立て工場で働いた。いすに座っての作業もできたが、部品が手に届きやすいため、一日中立ったままの作業が続いていた。
養蚕をやめた15年ほど前、工場での仕事を、フルタイムに切り替えた。症状は徐々に悪化。痛みやかゆみも出て、血が出るまで、足をかきむしり、皮膚は変色した。治したくても、どこに行けばいいのかわからず、そのまま放っておいた。
5年前、コレステロール値の経過観察のため、通っていたかかりつけ医に訴えると、皮膚科を紹介された。皮膚科では心臓血管外科の受診を勧められた。手術も必要だという。「手術なんて、怖い」。そう思い、心臓血管外科には行かなかった。
しかし、昨年3月の東日本大震災をきっかけに、更に症状は悪くなっていった。
6年ほど前から勤めていたヘルメット製造工場に注文が殺到し、週休1日の激務になった。朝8時から夜7時まで、昼の休憩時間の約40分以外は、ずっと立ちっぱなし。トイレに行き、便座に座るとホッとするぐらい、足を休ませる時間が待ち遠しかった。休日は横になっていないと、疲れがとれなかった。
秋に入り、ようやく覚悟を決めた。「手術を考えるので、病院の紹介をお願いします」。かかりつけ医に駆け込んだ。
「専門的な治療ができるのは、東北地方なら数えるほどしかない」。近くでは、JR仙台病院(仙台市)と福島第一病院(福島市)の二つの名前が挙がった。自宅から車で40分ほどで行ける福島第一病院を選んだ。
昨年12月、病院を訪れた。