読売新聞ヨミドクターの4月5日記事より抜粋

 膵炎(すいえん)は、発症原因が分からない例も多い。慢性膵炎は、男性はアルコール性が7割以上と圧倒的多数を占めるが、女性は原因がはっきりしない「特発性」が最も多く、4割に達する。


 兵庫県姫路市の中村多美子さん(42)も、お酒は飲まないのに慢性膵炎になった一人だ。


 発症したのは、流通業界で働いていた2004年。数か月前に勤務部署が替わり、ノルマがストレスだった。症状は、みぞおち付近や背中の痛み。最初は軽かったが、仕事のストレスが増すに従って悪化し、会社は発症2年ほどでやめた。


 何度も入退院を繰り返し、特に07年には、症状が悪化して激しい痛みに苦しむなど、入院は延べ半年間にも及んだ。


 現在は学習塾の事務アルバイトをしながら、服薬と食生活で症状を抑えている。昨年夏に登場した新薬「リパクレオン」がよく効いている。膵臓が出す消化酵素を補充して消化吸収を助け、膵臓を休ませる仕組み。従来の薬よりも強力だ。


 中村さんは「膵炎というと飲み過ぎと思われがちだが、私のような例もあると知ってほしい」と言う。今も原因は未確定だが、中村さんの経過や検査数値などから、主治医は遺伝子の異常を疑っているという。


 東北大病院消化器内科准教授の正宗(あつし)さんによると、慢性膵炎を起こすとされる遺伝子異常はいくつか見つかっている。


 そのうち、特発性慢性膵炎患者の約2割に見つかるのが、あるたんぱく質の遺伝子異常だ。


 通常、膵臓で作られる消化酵素トリプシンは、膵臓から外へ出て活性化するが、このたんぱく質が遺伝子の異常で働かないと、膵臓内で活性化し、膵臓を溶かす。中村さんの場合も、この遺伝子異常があるためか、そのたんぱく質が必要な時に増えないことが検査で分かっている。


 ただ、膵炎ではない人でも1%程度にこの異常が見つかるため、発症には他の要因もあるらしい。


 このほか、「遺伝性膵炎」の原因となる遺伝子異常も見つかっており、国内では18家系に確認されている。この遺伝子異常があると8割以上が膵炎を発症する。


 東北大病院では厚生労働省の研究の一環として、原因不明の慢性膵炎患者の遺伝子検査を行っている。


 異常が見つかっても診療方針が大きく変わることは通常ないが、正宗さんは「なぜ膵炎になったか本人が納得できるし、長期的に対応を考えられる。もし30歳前など若くして原因不明の膵炎になった場合は、遺伝子検査を受けた方がいい」と話している。