朝日新聞あぴたるにゆーすの4月5日記事より抜粋

 最初は水虫だと思っていた。


 津市の金塚孝美(かなづかたかみ)さん(59)は、自宅近くのスーパーで買い物をしていた昨年5月、左足の指先に痛がゆいような違和感を感じた。自宅に戻って靴下を脱ぐと、小指と薬指の付け根に出来た水ぶくれが破れていた。


 金塚さんは、19歳のときに慢性腎炎と診断され、52歳のときから週3回、地元の病院で血液透析を受けていた。透析を受けに行ったついでに、同じ病院の皮膚科医師にみてもらうと、「水虫だろう」と水虫用の軟膏(なんこう)を処方された。


 少しヒリヒリする感覚もあったので、ガーゼで覆ってもらった。「じきに治るやろう」と、あまり気にせず、そのまま風呂にも入っていた。


 しかし1カ月過ぎても、皮がむけた部分の傷は広がる一方。ヒリヒリする感じも強くなってきた。ほかの病院の皮膚科に行くと、処方される軟膏の種類が変わったが、症状は変わらなかった。透析を受けたついでに、ガーゼ交換など傷の手当てを受けるようになった。


 9月5日、いつものように透析先の病院でガーゼを替えてもらったときだった。傷口から、小指の付け根の骨が見えた。皮膚も紫色に変色していた。「なんやこれ」。すぐに院内の整形外科を受診すると、担当医から「小指が壊死(えし)しているので、ひざ下から切断したほうがよい」といわれた。


 長年透析を受けてきた患者は、食事に含まれるリンが体内でたまりやすく、カルシウムと結合して血管内に沈着しやすい。そのため金塚さんも、血管内が狭くなって足先の血流が悪くなり、指先が壊死していた。「重症下肢虚血」と呼ばれる状態だった。


 指を切断してもその傷が治らず、また壊死が起きて、全身に細菌感染が広がってしまう可能性があった。そのため、「より上のひざ下で切断した方がよい」との説明だった。


 「何で足の小指1本のためにひざ下から切らなあかんの。そんなのかなわん」


 金塚さんは、頭が真っ白になり、担当医の説明もよく理解できていなかった。病院から戻ると、長女(35)と次女(31)に泣きながら電話していた。(本多昭彦)