読売新聞ヨミドクターの4月2日記事より抜粋

 名古屋市熱田区で工場を経営する田中真実(まさみ)さん(70)がおなかに異変を感じたのは、50歳ごろだった。


 正月に家族や知人と酒を飲んでいた時、腹部が突然、声も出ないほどの激痛に襲われた。酔っていたため、最初は冗談と思われた。


 必死に訴えて救急車を呼んでもらい、近くの藤田保健衛生大坂文種報徳会(ばんぶんたねほうとくかい)病院に搬送された。診断の結果は「急性膵炎(すいえん)」だった。


 膵臓は胃の後ろの背中側にあり、長さ15センチ、厚さ3センチほどの臓器。様々な消化酵素を十二指腸に分泌し、血糖を調整するインスリンを血中に分泌するなど重要な役割を担う。


 膵炎は、消化酵素を含む膵液の流れが何らかの原因で悪くなり、膵臓の中で消化酵素が働いて膵臓自体を溶かし、炎症を起こしてしまう病気だ。強い痛みを伴うことが多い。

 突発的に起きる膵炎が急性膵炎で、痛み具合や血中の酵素の検査、CTなどの画像検査で診断できる。

 厚生労働省研究班の調査では、2007年の患者数は5万7560人。9年前の約3倍に増えている。


 治療の基本は、絶食して膵臓の安静を保つこと。痛み止めや、消化酵素の働きを抑える薬も使う。軽症なら数日で退院できるが、重症になると集中治療室での全身管理が必要になる。炎症が腹腔(ふくくう)内に広がれば、命を落とすこともある。


 原因で最も多いのはアルコールだ。男性患者の約4割を占める。田中さんも「お酒がご飯代わり」だった。飲み始めれば焼酎なら1升、ウイスキーならボトル1本は軽く空けていた。


 膵炎にアルコールは厳禁だが、断酒できない人も多い。田中さんも退院後、体調が良くなると飲んでしまい、急性膵炎による入退院を毎年繰り返した。入院中に抜け出して飲みに行ったことさえあった。


 症状は進行し、4年前には重症急性膵炎との診断を受け、体中に何本も点滴の管を付けられた。退院後は体調を崩し、自律神経失調症に苦しんだ。そこでようやく断酒を決意、今は一滴も口にしない。膵臓は萎縮してしまったが、幸い、機能は保たれている。


 同病院消化器内科教授の乾和郎さんは「アルコール性の膵炎では、痛みを酒でごまかす人もいるが、膵炎が進めばインスリンも出なくなり、最後には糖尿病になる」と警告している。