朝日新聞アピタルニユースの1月3日記事より抜粋

O(オー)157は、出血を伴う腸炎を起こす食中毒菌「腸管出血性大腸菌」の代表的なものだ。ふつうの大腸菌と違い、細胞を傷つける「ベロ毒素」という毒を作るので病原性が高くなる。


 牛など家畜の腸内にすんでおり、大便に汚染された水を使った農作物からも検出される。汚染された生肉を食べたり、感染者の汚物処理が不十分だったりすると、経口感染する。


 感染力が強く、数~数十個と、他の食中毒菌の約10万分の1に当たる量でも感染するとされる。特別な感染予防策はなく「肉は十分に加熱する」「手洗いや調理器具の消毒をこまめにする」といった食中毒予防の基本を徹底するしかない。


 内閣府の食品安全委員会のまとめ(2010年4月)では、毎年約4千人がO157やO26、O111などの腸管出血性大腸菌に感染する。うち65%が腹痛や下痢、血便などを訴え、さらにそのうち10~15%が「溶血性尿毒症症候群(HUS)」という重い合併症を発症する。1999~08年までの10年間で、計49人が亡くなった。


 HUS患者は、腎臓の微小血管の細胞がベロ毒素のせいで傷つき、血栓ができやすい状態にある。腎不全となり、血中の老廃物を尿に排出できなくなる。


 HUSの発症率を下げるには、下痢が始まった直後に「ホスホマイシン」などの抗生物質を飲むのが有効だと考える医師も多い。しかし欧米では抗生物質を使わないのが一般的で、専門家でも見解が分かれている。


 埼玉県立小児医療センターの前病院長、城宏輔(じょう・こうすけ)さんは「HUSの予防が治療の最大の目標だが、明らかに有効といえる方法はまだない」という。


 HUSは、脳や心臓、膵臓(すいぞう)などの臓器に悪影響が出るのも特徴だ。多くは発症から2カ月ほどの間に落ち着くが、連載で紹介した男の子のように、時間がたってから大腸の炎症部が悪化することがまれにある。


 傷を修復する働き(線維化)が裏目に出て、患部が硬くなると考えられている。HUSで痛んだ腎臓の機能が、年齢とともに下がる可能性も高い。


 独協医大越谷病院・小児外科の池田均(いけだ・ひとし)教授は「年単位で症状が進む可能性を頭に入れておくべきだ」と話す。(斎藤義浩)