毎日新聞オンラインニユースの9月9日記事より抜粋
体育館やグラウンドで、高校生たちが大汗をかきながら笑顔で駆け回る。8月17日、福島大で開かれたイベント「青春スポフェス」。キャンパス内に、元気な姿があふれた。
福島県には福島第1原発事故の影響で避難を余儀なくされ、県内の他校に分散して授業を行う「サテライト校」制度をとる高校が8校ある。その生徒や、サテライト受け入れ校の生徒が思い切り体を動かせる場として、このイベントが開かれた。企画したのは福島大人間発達文化学類スポーツ専攻で「スポーツ企画演習」の授業を履修する3年生の学生たちだ。
この授業では毎年、学生がスポーツイベントの企画・運営を実体験し、ノウハウを学ぶ。今年度は震災をテーマに、「どんなニーズがあるか」が議論に。弟が原町高のサテライト校に通う学生が「サテライト校は修学旅行や体育祭などの学校行事ができない」と話したのがきっかけで、体育祭や球技大会に代わるイベントを開こうと話がまとまった。その後、スポーツの社会貢献活動を行う一般社団法人「日本アスリート会議」や、東京都との連携も決まり、元ソフトボール女子日本代表監督の宇津木妙子さんらもゲスト参加した。2020年夏季五輪招致で被災地での一部開催を検討する東京都は、各種の被災地支援事業の中にスポーツも組み込んでいる。
■離れた仲間と再会も
当日は原町高、小高工高、双葉高などのサテライト校、相馬東高、福島商高など受け入れ校の約10校から約200人が集まり、バレーボール、バスケットボール、サッカー、ソフトボールに興じた。
それだけではなかった。双葉高のバレーボールチームには、震災後に福島西高へ転校した阿部聖也さん(3年)も加わり、「このイベントのおかげで、双葉の友達と久しぶりに会えた」と喜んだ。サテライトの二本松工高に通う小高工高の天川龍二さん(3年)も、相馬東高に通う同級生とチームを組み、「離れていた仲間と集まる機会がなかったので楽しかった」と笑顔。高校生たちのきずなを改めてつなぐ貴重な機会にもなった。
運営の代表を務めた遠藤慶充さん(福島大3年)は「これを機に福島大を目指す高校生が増えて、将来もイベントなどで地元を盛り上げてほしい」と、大学や地元への思いも寄せる。
■まず部活動から始動
福島、宮城、岩手の3県では日本アスリート会議と東京都の協力もあり、地元大学を軸にしたスポーツ支援が進む。
岩手県では8月27~28日に、沿岸部の中学6校からバスケット、剣道など4競技の部員165人を岩手大に招き、交流会や講習会を行う「いわてスポーツクリニック」を開いた。岩手大の浅沼道成教授は、「沿岸部には地域スポーツの拠点になる組織が少なく、スポーツの復興は部活動の支援から始めるのがいいと考えた」と話す。
福島大では、沿岸部の総合型地域スポーツクラブと連携したり、会津地域の雪を生かした冬のイベントなども計画。宮城県でも仙台大や石巻専修大を中心に事業の検討が進む。施設や人材を擁し、地域事情も熟知する各地の大学はスポーツ復興を先導する力を秘めている。【石井朗生】=つづく