朝日新聞アピタルニユースの8月2日記事より抜粋
入院が必要な重症患者を診る福山市の2次救急病院で、夜間や休日に多数の軽症患者が訪れる「コンビニ受診」が問題になっている。市によると、年間2万人を超える受診者の約8割が軽症患者。医師不足もあって病院側の救急態勢は限界に近づき、軽傷受診を減らすために追加料金を請求する病院も出始めた。
救急医療は、症状の重さによって各病院が役割分担している。軽い風邪など軽症患者に対応する「1次」▽入院や手術が必要な重症患者を診る「2次」▽心肺停止など容体の重い患者を受け入れる「3次」だ。
市内12カ所の2次救急病院の一つ、国立病院機構・福山医療センター(沖野上町)は6月、「時間外選定療養費」と呼ばれる追加料金の徴収を始めた。
夜間(午後5時15分~翌日午前8時半)や休日に来院した軽症患者に、通常の診療費に加えて一律5250円を請求。救急車で運ばれた場合でも、軽症患者だった場合は請求する。
同センターによると昨年度、夜間や休日に受診した患者数は6340人。うち入院した重症患者は2割強の1556人で、残り7割強は緊急性の低い軽症患者だった。「昼は病院が混む」「日中は仕事で忙しい」などの理由で来院するケースが目立ったという。
一方、患者を受け入れる病院側の態勢は厳しい。同センターの小児救急で、夜間や休日に交代で宿直する医師は8人。日本小児科学会の指針に当てはめると14人が適正だが、それを6人下回る。医師1人あたり月4回ほど宿直。ほかに緊急に呼び出される日もある。
多い日は一晩で10人ぐらいの患者の手術や診察を1人でこなし、翌朝からの診察に移る。小児科医の一人は「心肺停止の新生児が運ばれてくる時に、軽症患者の診察まで対応するのは困難だ」と訴える。
徴収を始めた今年6月の夜間・休日の受診者は、前年同月の459人より約2割少ない375人。うち軽症患者は171人で、約4割まで減った。センターの岩川和秀・救急医療部長は「まだ現場に余裕はないが、前より重症患者の治療に専念しやすくなった」。
追加料金の徴収は、受診者減で病院側の減収にもつながる「苦肉の策」だ。岩垣博巳副院長は「救急医療が崩壊しかねない現状を理解してほしい」と訴え、緊急性が低い場合は昼間の受診を呼びかけている。
◇成人の夜間診療所、福山市が開設準備◇
医師不足も深刻だ。福山市によると、市内の小児の2次救急病院で宿直する医師は09年度、計17人いたが、今年度は13人に減った。高齢化も進んで若い医師に宿直の負担が集中する中で、コンビニ受診が追い打ちをかける。
状況を改善しようと、市は今月の広報誌に「小児救急がピンチです!」と題した特集を掲載。軽症なら昼間にかかりつけ医で受診するか、市医師会が運営する1次救急の福山夜間小児診療所(三吉町南)や休日当番医の利用を勧める。
市は、夜間に成人の軽症患者を診る救急支援診療所の12年度末の開設に向けて、準備も進めている。
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他県でも様々なコンビニ受診対策が試みられている。岡山市北区の一部地域の開業医らでつくる御津医師会は08年秋、平日夜間に開業医が交代で軽症患者を診る夜間輪番制を始めた。
地域内の約1万5千世帯に夜間の受付電話番号を記したシールを配ってPR。利用者は月に数人とまだ少ないが、地元町内会は「いざというときに安心」と、継続を求めているという。
徳島県では、夜間の子どもの急病時に医師らが相談に応じる「徳島こども救急電話相談」を、毎日午後6時~翌日午前8時まで設けている。子どもをすぐに病院へ連れて行くべきか判断に迷う場合、保護者に助言。10年度は相談約8千件のうち、約1500件は軽傷とみて翌日朝以降の受診を勧めたという。広島県も小児救急医療電話相談を設けているが、毎晩午後7~10時に限られている。