1月の外気は今日も刺すように冷たい。
ダウンジャケットの袖口から覗く、
悴んだ手の平を握りしめた。
ラグナに向かう交差点の向こう…。
50m先にひろとの姿が見えた。
夜の闇に溶け込むような黒のコートに、金髪のセットされた髪が揺れている。
後ろ髪を引っ張られるように歩くひろと独特の歩き方…。
見つけた瞬間、自然に顔が笑ってしまった。
私は駆け出したい気持を必死で抑える。
街中に溢れる人の中で、
ひろとだけが浮いて見えた。
どんなに遠くからでも私は、ひろとをすぐに見分けられた。
いや…、見分けられるのとは違う。
目に飛び込んでくる感じだ。
私の目にセンサーが付いていて、ひろとを見つけると、
ピタッと標準を合わせてしまうのだ。
たとえ一緒にいる時でも、意識しないようにすればするほど、ひろとの姿を目で追ってしまった。
堪えきれず視線をそらしても、
全身でひろとの気配を感じようといつも気を配っていた。
ひろとから二分ほど遅れて、私はラグナのエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターを降りるとすぐ、
“ラグナ”とロゴが入った重厚なドアがあった。
“中でひろとが待ってる”
私は今日もドキドキしながら、そのドアを開けた。
ひろとはいつものカウンターの右端の席に座っていた。
頬杖をついて携帯を弄っている。
画面に集中していて、私に気付く様子もない…。
私は近づいて行って、顔を覗き込んだ。
「お疲れ。早かったね♪」
ひろとはこちらを見て、青い目を嬉しそうに揺らした。
「お疲れ~。うん、今来たとこ」
「知ってるよ(笑)」
「え?なんで?」
「だって、下でひろと見えたから(笑)
もうオーダーした?」
「うん、ココア」
私は苦笑いした。
ラグナはワインバーだ。
元々、この店にココアはメニューになかった。
常連の私と、
よく一緒に来るようになったひろとの為に、
店長が用意してくれたのだ。
それ以来、
ひろとは毎日の様にココアを頼んでいた。
バーテンの小崎がおしぼりを持って来た。
「いらっしゃいませ、理緒さん。
シャンパンですか?」
「shure!」
突然、
英語で返した私に、小崎は笑顔のまま手を止めた。
「もちろんって事!(笑)」
横からひろとが口を挟む…。
小崎は“ああ!”って、顔をして、
「yes,miss!」
と元気よく返して、
シャンパンを取りに行った。
私は酔うとよく、英語でひろとに話かけた。
簡単な日常会話だったけれど、
その全てを彼は聞き取って、
「I see 」
とよく響く、低い声で答えた。
ひろとはハーフで、お母さんはアメリカ人だと聞いていた。
ずっと小さい頃に別れて、
どんな人だったか記憶にないと言っていたけど、
その発音はDNAって、スゴいなと感じさせるものだった。