天使
私、天使のお話したかな?
してないかな。
天使に会ったのです。
それか、天使のつかいかな。
ずっと心の中にあるのです。
去年、デンマークへ行ったとき、コペンハーゲンがあるシェラン島から、隣のヒュン島を通り、そのまた隣のユトランド半島へ、1日かけて行った日がありました。
目的がありました。
昔、父がユトランド半島のビリビアという、小さな村に半年ほど住んでいたときがありました。大きな大きなデンマーク地図を両手いっぱいに広げないとなかなか書いていないところです。
私が小さかった頃、父がそこでの生活のお話をたくさん聞かせてくれました。
そのお話の世界へ行ってみたかったのです。
私、デンマークではホームステイをしていて、その家族に父がビリビアに住んでいたことを話しました。
私がデンマークへ行った一番の目的は、現地の子どもたちと絵を描いてつながりたいというもので、毎日平日は保育園へ行っていたので、島が違う遠いビリビアへは時間がなくて行けないだろうと決めつけていました。
でもホームステイ先の家族が「丸1日あれば、行けないことはないよ。行き方も調べてあげるよ」と、全部調べてくれて、バスや電車のチケットもトントン拍子で取ってくれたのです。
それはとてもとてもワクワクしていて。
行けるなんて思っていなかったビリビアへ、小さな頃から聞いていたお話の舞台へ行けるなんて。
保育園がない土曜日だか日曜日だか忘れましたが朝早く起きて、最寄り駅のオスタポート駅を出発し、ビリビアへ向かいました。
異国の知らない地で、時間や降りる駅などの詳細が書かれたバスや電車のチケット4枚だけが頼りで、乗りかえが分からないときはチケット見せながら人に聞き、その時間に乗り遅れないようにこまめに確認をしながら、一歩一歩着実に、ビリビアへと近づいていきました。
4時間くらいかかったかな、ビリビアから一番近い、ヘアニングという少し大きな町へ着きました。
ヘアニングという町の名前も父の話の中にちょくちょく出てきたので、「ここがヘアニング。。父も40年前、歩いたことがあるのか」と、なんだか不思議な気持ちになりながら電車を降りました。
中国からの観光客なのか、20代前半らしき女の子も一緒に降り、私と目が合うと微笑んでくれて、一緒に隣にいたやはりその子と同い年くらいの女の子に耳元で何かささやいて、そしたらその子も私を振り返って、2人でニコニコ微笑んでくれました。
最初に微笑んでくれた子は、私が見えなくなるまでずっとずっと微笑んで、なんだか私をとても気にしているようでした。
チケットはヘアニングまでしか行かないので、そこからは自分でビリビア行きのバスを見つけないといけません。ここからそんなに遠くはないはず。
けれどいくらバス停を見ても全く分からなくて、駅の反対側もしばらく歩いてみたけれど分かりません。駅員さんもいないし交番らしきところも見つからないし、バスを待っている人に聞いてもビリビアという所が小さすぎるのか皆分からなくて、時間が過ぎていくばかりで途方にくれていました。
このままじゃ、ビリビアへ行けないまままたコペンハーゲンへ戻ることになると思って、帰りの電車までの時間を見てみようとリュックからチケットが入ったファイルを取り出して見てみました。
その瞬間。
今までなかった強い突風が吹いてあっという間に私の手から4枚のチケットをすべて奪ってしまったのです。
クリップで留めてあったA4サイズもあろう薄っぺらいチケットはバラバラに空へ舞い、角を曲がってきたバスにひかれ、あっという間に私の足では追い付かないところまで飛んでいってしまいました。
ほんの数秒の出来事でしたが、私はその間に「あーあ帰りのチケットは飛んでいってしまった。もう、帰れない。日本へも帰れなくなったんだ。」と、それまで追いかけていた足が止まってしまいました。
その時です。
天使が。
あの、中国からの観光客らしき女の子が。ずっとずっと、見えなくなるまで微笑んでくれてた女の子のほうが。
私を抜かして、走って走って、風よりも速く走って、4枚の全てのチケットをかき集めて、私に渡してくれたのです。
私は、状況をのみこむのにしばらく時間がかかり、なかなか言葉が出ませんでした。
数秒の間があって、やっと、「センキュー」が出てきました。
天使はやっぱり微笑んでいて、ただ微笑むだけで、チケットを渡すとさっと角を曲がって消えていきました。
私はしばらく立ち尽くしてしまって、でも我にかえり、急いで消えていった道を探しても、もうどこにもいませんでした。
私はゆっくりゆっくり、歩きながらまたバス停のほうへ向かいました。
そしたら奥に、また違うバス停があるのに気がつきました。
行ってみると、ビリビア行きのバスがありました。
そしてそのバスへ乗って揺られること15分、ビリビアへようやくたどり着きました。
ビリビアへは、誰でも行こうと思えば行ける。
ただ、
あの子はなんだったのだろう。
なぜあそこにいたのだろう。
なぜ私にずっと微笑んでいたのだろう。
なぜ、
なぜ?
さて、今、私の心のなかには天使がいます。
天使がどこからやってきて、どんな声をしているのか、私には分からないけれど、私のなかに、天使がいます。
そして微笑んでくれているのです。
してないかな。
天使に会ったのです。
それか、天使のつかいかな。
ずっと心の中にあるのです。
去年、デンマークへ行ったとき、コペンハーゲンがあるシェラン島から、隣のヒュン島を通り、そのまた隣のユトランド半島へ、1日かけて行った日がありました。
目的がありました。
昔、父がユトランド半島のビリビアという、小さな村に半年ほど住んでいたときがありました。大きな大きなデンマーク地図を両手いっぱいに広げないとなかなか書いていないところです。
私が小さかった頃、父がそこでの生活のお話をたくさん聞かせてくれました。
そのお話の世界へ行ってみたかったのです。
私、デンマークではホームステイをしていて、その家族に父がビリビアに住んでいたことを話しました。
私がデンマークへ行った一番の目的は、現地の子どもたちと絵を描いてつながりたいというもので、毎日平日は保育園へ行っていたので、島が違う遠いビリビアへは時間がなくて行けないだろうと決めつけていました。
でもホームステイ先の家族が「丸1日あれば、行けないことはないよ。行き方も調べてあげるよ」と、全部調べてくれて、バスや電車のチケットもトントン拍子で取ってくれたのです。
それはとてもとてもワクワクしていて。
行けるなんて思っていなかったビリビアへ、小さな頃から聞いていたお話の舞台へ行けるなんて。
保育園がない土曜日だか日曜日だか忘れましたが朝早く起きて、最寄り駅のオスタポート駅を出発し、ビリビアへ向かいました。
異国の知らない地で、時間や降りる駅などの詳細が書かれたバスや電車のチケット4枚だけが頼りで、乗りかえが分からないときはチケット見せながら人に聞き、その時間に乗り遅れないようにこまめに確認をしながら、一歩一歩着実に、ビリビアへと近づいていきました。
4時間くらいかかったかな、ビリビアから一番近い、ヘアニングという少し大きな町へ着きました。
ヘアニングという町の名前も父の話の中にちょくちょく出てきたので、「ここがヘアニング。。父も40年前、歩いたことがあるのか」と、なんだか不思議な気持ちになりながら電車を降りました。
中国からの観光客なのか、20代前半らしき女の子も一緒に降り、私と目が合うと微笑んでくれて、一緒に隣にいたやはりその子と同い年くらいの女の子に耳元で何かささやいて、そしたらその子も私を振り返って、2人でニコニコ微笑んでくれました。
最初に微笑んでくれた子は、私が見えなくなるまでずっとずっと微笑んで、なんだか私をとても気にしているようでした。
チケットはヘアニングまでしか行かないので、そこからは自分でビリビア行きのバスを見つけないといけません。ここからそんなに遠くはないはず。
けれどいくらバス停を見ても全く分からなくて、駅の反対側もしばらく歩いてみたけれど分かりません。駅員さんもいないし交番らしきところも見つからないし、バスを待っている人に聞いてもビリビアという所が小さすぎるのか皆分からなくて、時間が過ぎていくばかりで途方にくれていました。
このままじゃ、ビリビアへ行けないまままたコペンハーゲンへ戻ることになると思って、帰りの電車までの時間を見てみようとリュックからチケットが入ったファイルを取り出して見てみました。
その瞬間。
今までなかった強い突風が吹いてあっという間に私の手から4枚のチケットをすべて奪ってしまったのです。
クリップで留めてあったA4サイズもあろう薄っぺらいチケットはバラバラに空へ舞い、角を曲がってきたバスにひかれ、あっという間に私の足では追い付かないところまで飛んでいってしまいました。
ほんの数秒の出来事でしたが、私はその間に「あーあ帰りのチケットは飛んでいってしまった。もう、帰れない。日本へも帰れなくなったんだ。」と、それまで追いかけていた足が止まってしまいました。
その時です。
天使が。
あの、中国からの観光客らしき女の子が。ずっとずっと、見えなくなるまで微笑んでくれてた女の子のほうが。
私を抜かして、走って走って、風よりも速く走って、4枚の全てのチケットをかき集めて、私に渡してくれたのです。
私は、状況をのみこむのにしばらく時間がかかり、なかなか言葉が出ませんでした。
数秒の間があって、やっと、「センキュー」が出てきました。
天使はやっぱり微笑んでいて、ただ微笑むだけで、チケットを渡すとさっと角を曲がって消えていきました。
私はしばらく立ち尽くしてしまって、でも我にかえり、急いで消えていった道を探しても、もうどこにもいませんでした。
私はゆっくりゆっくり、歩きながらまたバス停のほうへ向かいました。
そしたら奥に、また違うバス停があるのに気がつきました。
行ってみると、ビリビア行きのバスがありました。
そしてそのバスへ乗って揺られること15分、ビリビアへようやくたどり着きました。
ビリビアへは、誰でも行こうと思えば行ける。
ただ、
あの子はなんだったのだろう。
なぜあそこにいたのだろう。
なぜ私にずっと微笑んでいたのだろう。
なぜ、
なぜ?
さて、今、私の心のなかには天使がいます。
天使がどこからやってきて、どんな声をしているのか、私には分からないけれど、私のなかに、天使がいます。
そして微笑んでくれているのです。