窓ガラスの向こうの東京湾は
八月の日差しを受けて
くすむ灰色の街に
鮮やかな光を注いでいる。


バックミラー越しに映る彼は
その彼方に目を泳がせている様に見えたが

それは気の所為かもしれないと
私はフロントガラスへと視線を戻し
気を取り直す様に
ハンドルを握り直すのだった。




空港への道程は
湾岸線を使えば ものの数十分とかからない


それでも私は 胸のどこかで
焦れる様な感覚を覚えていた

夕方の便には 十分に間に合うであろう
急いでいる訳では 勿論なかったのだが。




彼との会話は どれも当たり障りも無いモノで
その殆どが 私達の中で
明確な形を残す事はなく

泡の様に積もり
順に消えていった。





立ちこめる入道雲の隙間を
飛行機が 突き抜ける様に
飛んでいくのが見えた


彼は 会話の間もずっと

優しい目で その行方を追っていた




彼が思いを巡らせているとするなら


それはきっと 彼女の事だろう




彼女を乗せた便は
今 どの辺りを飛んでいるのだろうと


私は ぼんやりと考えていた。







速度を上げて

斜め前方の軽自動車を追い越していく




私は 何に焦っているんだろう





彼との 気まずい沈黙から逃げる様に

彼の視線を 振り切る様に


私はアクセルを踏む。







出口を示す標識が見えると

彼もそれに 視線を向けたのを


私は バックミラー越しに見た





彼女を乗せた便は


夕刻 空港に到着する。