改札を抜けてすぐの
バスターミナルで
一番端のベンチに 僕は腰掛けた。
海岸沿いの その場所は
時々 優しい風が吹いて
その度に 潮の香りを運んでくる。
行き交う人々の その中に
旧友の顔を見つけた
ゆっくりと こちらへ近付いてくる
不思議と 声は聞こえないが
彼は僕に
此処で何をしているのかを問うた様だ
僕は答えた
『待っているんだよ』と
彼はそれを聞くと
呆れた様に笑い
再び 人込みの中へ消えていった。
陽は高く昇り
駅前は 賑わいを増していく
しばらくすると
今度は 僕の知らない人が
こちらへ向かって 歩いてくる
どうやら 女性の様だが
首から上は ぼやけて良く見えない
彼女は僕に
此処で何をしているのかを訊ねた
不思議に思いながらも
僕は答えた
『待っているんです』と
彼女はそれを聞くと
気の毒そうに 僕を見ながら
再び 人込みの中へ消えていった。
やがて影は長く延び
夕凪となった海岸に
静けさが舞い戻る頃
歩き疲れた 一匹の猫が
夕涼みの場所を探しにきた
勿論 声は聞こえないが
猫は僕に
日がな一日
此処で何をしていたのかを
聞き出したい様だ
少し 答えに迷ってから
僕は答えた
『待っていたんだよ』と
猫はそれを聞くと
つまらなそうに 欠伸をして
再び 何処へと歩き出した。
此処へ来てから
彼此 どの位経つのだろう
時間を確かめようにも
生憎 腕時計はしない主義だ
バスターミナルの中心の
時計台へと 目をやった
ところが その文字盤に 針は無く
12個の数字が
円周上に並ぶだけで
見る限り
時計は世界を 動かせそうになかった
流れない 永遠の時間に
安堵しかけた まさにその時
カチリと響く
秒針に似た その音で
僕は 目を覚ました
小さな部屋で 僕は一人
進まない時間を 羨んでいた
何から逃げているんだろう
何から目を逸らしているんだろう
何から呼び止められているんだろう
何を 待っていたんだろう?
今はもう 何も解らなくて
唯 確かな事は
廻り続ける世界と
止まらない日常
なのに 僕は。