すっかり日が暮れて、湖岸の周りは闇に包まれている。

今も消えないオリオストの起こした土煙が闇に紛れて大きな山の様だ。

 

そんな闇でも、弔いの火とでもいうのか、枯れ木をくべた囲いで、勢いのある炎が舞い、ラリスとシドの眠る場所を映し出している。

横で、炎の魔人が立っているのは違和感を感じるが、肝心の炎を絶やさない為だと考えればモヤっとしながらも納得できるだろうか。

 

あらん限りの勢いで踊る炎のうねりを映す地面の影に入る様に佇む村人たち。

誰一人湖から村への帰途についた者はいなかった。

 

誰からともなく集められた枯れ木と落ち葉でできた炎の光。

影に隠れては炎の光に照らされて見えるを繰り返す。

木の弾ける音以外、無音ともいえる異様な空気の中、静寂は途絶えた。

 

「そうか…あいつらしいや…」

ぼそりと漏れ出る様な声はジョー

あれから落ち着いて、シドの顛末を聞いたらしい…

 

ハージンに向けられた激情は影をひそめ、何とも言えない悔しそうな表情を浮かべている。

 

「俺が…ビビッて引かなけりゃ…」

申し訳なさそうにうつむくディエマ。

 

「いや、俺が止めてたら…なんで行かせちまったんだ俺わ…」

頭を抱えるジョー。

 

「もう、そうやってすぐモンモンしちゃって~」

響く声はレナン。

 

「も、モンモン?」

「そうだよ。ディエマなんか、終わった事言ってもって言ってたくせに」

「そ、それは…」

「やっぱ、コドモですか~?」

 

バカにするレナンが横にいる同い年くらいの青年に同意を求めると、ニヤニヤしながら、

「ねぇ~」

とすかさず相槌。

 

「キンデ!!!てめぇ」

立ち上がりかけるディエマに、キンデと呼ばれた青年は臆さず声をだす。

「ディエマ!!!」

 

「あ?あんだよ?」

ディエマが年下にからむおじさんに見える。

そう言っても差し支えない感じ。

 

「シドはそういう十字架背負ってほしくないと思ってるって思うんだ」

真っすぐな目で見返すキンデに圧倒されるディエマ。

キンデの横に座っていた別の青年が続ける。

 

「そうだよ。せっかく助けた二人が、そうやって十字架を背負ったなんて知ったら、シドの奴、化けて出るぜ」

「シャムゥの言う通りだよ。涙、涙じゃ、ますますシドの死が切ないじゃん…」

 

シャムゥからキンデと思いをつなげるように言葉が続く。

 

「…戦争孤児だった俺らを迫害から守る為だってここに連れてきてくれた英雄は、最後まで英雄らしい最後だった…それでいいんじゃないの?」

 

「お前ら…育ての親同然のシドが死んだ…悲しくねぇのかよ?」

問いただすかのようなジョー

 

「あぁ、シドは英雄で、この村のリーダーで、村の誇りだった…戦争で多くの命を奪った罪滅ぼしだって言ってたけど、そんなの微塵も感じさせない家族同然の存在だった…」

静かに答えるキンデ。

バトンを受け取るように続けるシャムゥ。

「乞食同然の生活を強いられてた俺たちに居場所をくれた大切な…家族さ…」

 

共に流れる涙…

その人となりを知らなくても、彼らの思いが伝わる。

 

「だからこそ、悲しんで、前に進めないなんて望んでないと思うんだ…」

 

「すまねぇシャムゥ…」

泣きそうなのを堪えるジョー。

 

「しっかりしてくれよ次期リーダーさんよ」

「へ?」

「へ?じゃねえよ…あんた以外務まるわけないだろ?」

キンデとシャムゥに詰め寄られて困惑するジョー。

 

「いや、俺は…おい、ディエマ…」

ニヤニヤが止まらないディエマ。

 

「いいんじゃないでしょうか」

「お、おいシレイスまで…」

 

「あたしも良いと思うよ…頼りなさそうで、いつもしっかり気遣っててくれてるし」

とレナン。

 

「いやあ、でもよ…」

否定枠を探すジョーだったが…

 

「いいでしょう、みんな?」

レナンの声に、

 

もっちろん、

まあ、仕方ないか。

いいよいいよどうせ代わりになれる奴なんていないだろ?

 

ざわついていたが、一つにまとまる声。

「いいぜ!!」

 

「諦めてください」

「いや、でも俺は…」

「いいって…」

 

「よくない!!!!」

 

丸め込もうとするシレイスとディエマを制するようなジョーの声。

厳しい顔を向けるジョーに不安な表情の村人たち。

 

「なあ、聞いてくれ…シレイスとディエマがハージンと戦うって言って出ていったあと、俺は追いかけもせずにいた…」

「それが何だよ?」

 

「いつもと様子が違ってた…シドも、お前らも…なのに止めなかった…俺にリーダーの資質はない…」

 

「なんで止めなかったんだ?」

「私はシドと話してたから合意のうえかと…」

 

?という表情を向けるディエマとレナンにしどろもどろな感じでジョーが答える。

 

「あ、あいつの気迫にビビッて何も言えなかった…それにさっき、ハージンに詰め寄ったのだって、感情的で冷静さを欠いてた…こんな奴が指導者なんて…できっこない…」

 

かみしめるように言うジョーだったが…

 

それがどうした?

ジョーらしいや…

ジョーだからいいんだろ?

完璧なリーダーなんて求めてないし!

お前以外考えられない!!

 

溢れるように飛び出すみんなの声。

 

「お、俺はいつも頼りなくって…」

自信無げに、頭をかくジョーに、

 

「それでいいんだよ!!!!」

何人かの声が響く…

 

開いた口が塞がらない…

まさに、そんな状態…

 

「アゼクに指導者は要らない。リーダーという名のシンボル!!それがあればいい…ってこったろ?」

 

「ディエマ…」

「それが務まるのはシドのとなりにいたジョー…あなただけですよ…」

「シレイス…」

 

「泣いちゃったよ…」

「ばっきゃろ!!これは涙じゃない!!」

「じゃあ、何だよ!!」

「うれし涙だ!!」

「なんだそれ?」

「結局泣いてんじゃん!!」

 

「うっせぇ!!これが泣かずにいられっか!!」

ゴシゴシっと涙を拭きとるが、潤む目元。

「おう、おう、おう!!みんな!!もう一度聞く!!」

 

「本当に俺で良いんだな?」

真っすぐにみんなを見るジョー。

 

「みんないいよな?」

ディエマが手を上げながら聞く。

すると、誰からともなく一斉に上がる手。

 

「みんな良いってよ!!あんたが今までやってきた事、みんなわかってるんだ。シドだけじゃない。あんたがいてこそのアゼク村だって…」

 

「そうです。ギラついて最初馴染めなかったキンデと私の仲をとりもってくれたのは、あなただった。あなたには人を和ませる能力があるんです。リーダーになくてはならない素質です」

シレイスの言葉に恥ずかしそうに身をすくめるキンデ。

 

それを見て、頷くジョー。

直立の姿勢で身を正すと、左胸に拳を当て、言った。

 

「このジョー・カルロス・フォン・ギエン、アゼク村のリーダー!!謹んでお受け申す!!!」

 

湧き上がる歓声と拍手喝采。

 

マジか…

 

単なる涙もろいおっさんに思えていたハージン。

予想もしない反響に戸惑いながらも拍手を送る。

 

シレイスのイフリート変身問題を横目に、新しきリーダー誕生の瞬間だった。

 

 

           ~続く~