「ディエマ!!!」
血だまりの中のディエマのもとへ、跳躍で瞬時に駆け付けるシレイス。
「………!!」
弱々しいが、息をしている…
意識はあるようだ。
「よかった!!」
シドに合図を送る。
そんな場合か!!とでもいうように手を振るシドだったが、顔を見れたなら、安堵した様子がうかがえただろう。
「塞ぐだけでは駄目だ…溜まった血を抜かなくては…」
言いながら、慣れた手つきで腹の方を押すシレイス。
「グボッ…」
肺というポンプを失った口から吐き出される鮮血。
普通に考えれば、余計に呼吸困難、あるいは出血多量で重篤な状態に陥りそうな方法だが、シレイスが持つ知識は、これが正しいと教えていた。
口元に耳を持っていき、はっきりとした息の行き来があるのを確認すると、今度は傷に手を当てる。
光る手は、魔力を帯び、少しずつだが、穴を塞いでいく。
「頼んだぞシレイス!!」
声はハージン。
この時、注意を化け物に向けていたなら、その口元が歪むのを確認できたに違いない。
笑っていた…
蹴り!蹴り!!蹴りぃいいいいいい!!!!!
防戦一方の怪物。
しかし、蹴っても蹴っても倒れない怪物。
(くそっ急所はどこだ!!)
ディエマとの一戦において、木の枝を真っ二つに裂いたあの蹴りである。
しかし、どこを蹴ろうと、まるで通じない。
その装甲を切り裂いたシドの一撃が、いかに凄まじい威力だったかと思い知らされる。
まるでゴムでも蹴っているような固い中に弾力的反動を感じるハージン。
(早くしなければ…)
攻撃する視界の隅にある見逃せない状況にハージンが気づいた。
(シド…死ぬな…)
力落ち、生気が感じられないシドの表情。
吐血したか、口元が赤い。
顔は白く、血の気が失せている…
シレイス、まだか…
精神を削る揺らぎを感じる。
凄まじい集中力での魔法行使だが、ディエマの傷は、まだ治っていないようだ。
やはり、シレイスの治癒魔法は、まだ実戦で使える様なレベルではない…
「くそったれ!!!」
いら立ち、大きく振った蹴りは、軌道を読まれ、よけられてしまう。
「しまった!!!」
シドの方へ飛ぶ化け物…
「くっ!!!」
グッと力を入れるハージンの手に、宝剣が出現していた。
無意識に呼んでいた。
「そうか!」
やっと気づくハージン。
焦って勢い任せに蹴りを放っていたが、崩せないなら、その装甲ごと切り裂いてしまえばよかったのだ。
現に、シドの剣に切られた化け物の腹は、開いたままだった。
「よぉっし!」
シドを助ける為、止まり、力をためる…
化け物目掛け一気に地面を蹴り跳躍するハージン。
しかし、
「なんだと!!」
化け物の狙いはシドでは無かった。
待ってましたとばかり、ハージンと逆に飛ぶ化け物。
「くそっ!!」
治癒魔法を行使する事に集中する無防備のシレイス。
化け物の狙いはシレイスとディエマだったのだ。
「逃げろォオオオオオッ!!シレ…」
声は届かない。
ハージンを信じて集中していたシレイス。
化け物の体当たりが真面にディエマごと吹っ飛ばした。
見た目通りの体重であろう巨体は、まるで大岩が降ってきたのを受け止めるがごとく、二人から一気に生気を奪い去った。
化け物が切られた時同様、ビクビクと痙攣するシレイスとディエマ。
演技ではない瀕死の二人。
特にディエマがひどい。
痙攣が弱々しいのだ。
(ディエマ!!!!)
手を伸ばすシド…
もはや、かすれたような声ならぬ声。
口元が紫に変色して息も粗い。
キャアッキャッキャ♪♪
あざ笑うようにステップを踏む化け物だったが、
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
怒気!!
凄まじいまでの怒気を感じ、化け物の表情が歪む。
膨れ上がる感情を表すように、赤く発光するハージン!!
「キ・サ・マァアアアア────ッ!!!!」
ズアッ!!!
聞いたことが無い音が走る。
音?空気?
とにかく、凄まじい、表現しきれないような現象を起こしながら消えたハージン。
現れたのは、化け物の前。
膝をつき、宝剣で空間を切り裂くように構えるハージンから伸びる光の刀身が化け物の裂けた内部まで続く。
絶命の断末魔を上げる暇すらなく、真っ二つに裂けた怪物が崩れると、黒い気幕のように消えていった。
(一瞬で、あの装甲を…なんて、力だ…)
視界がぼやけるのを感じるシドの心の声。
「シレイス!!シレイス!!」
半狂乱のハージン。
(落ち着け…治せる…君なら)
響く声はシド…
シドの思いの強さなのか、念で会話が成立していた。
逆に言えば、そうしないと喋ることが出来ないほどの重篤な状態…
!!!!!
シドとつながった瞬間、ハージンは悟った。
命の火が風前の灯を想起させるくらい、小さく感じられる…
「シド!!!!!」
振り向くハージン。
(バカヤロー…俺より先に二人だ…)
「し、しかし…」
(頼む…ディエマ…シレイスを…)
明らかに先に落ちそうな命の灯…
しかし、ディエマ達も…同じだ。
逡巡するハージン。
(迷ってる場合か…俺は大丈夫)
虚勢を張るシド…
その言葉と裏腹に、地面にくずおれ、視線は虚ろだ。
急げ…
急ぐんだ。
想いが彼を動かす。
まず、ディエマ…
いや、間に合わない!!
二つの手から練りだされる奇跡の光。
大きくなり、二人とハージンを覆った…
シドが近くにいたなら、恩恵を受けられていたのかもしれない…
しかし、吹っ飛ばされた二人とシドの距離は一跳躍では、届かないくらい離れてしまっていた。
見えない光に癒しを感じるシド…
視線は向いているが、認識できないほど思考が落ちていく。
そんな中、何とか二人の命の火がつながったのを確認すると、シドの目から光が消えた…
~続く~
