ディエマの疑問には答えず、化け物の更なる事実を語り続ける。
それはまるで、現代において、AIが喋るときの無機質さの様だった。
「千人殺せば、化け物の魔法が解ける…それを信じたヤツは、人を見つければ殺す…けど、あの時ヤツは笑っていた」
ハージンを出し抜いてディエマ達に体当たりをくらわせた時だ。
「アイツは本当の化け物に成り下がっちまったようだ…」
「いいけどさ、何で知ってるんだ?」
ディエマが同じ質問を繰り返す。
すると、
「うん?」
思考停止したようなハージン。
???
ディエマとシレイスは顔を見合わせ困惑する。
「何で…?何でだろうな…」
「はぁ?めちゃくちゃだな!かなり知ってる風だったぞ!!」
「知ってる…そうには違いないんだが…どこでだったか思い出せない」
「おいおい、大丈夫か?」
本気で心配するディエマを、それまで様子見していたシレイスがなだめる。
「まぁまぁ、記憶喪失なんだから仕方ないんでしょう」
「むぅ…記憶無しであんなに話せるもんなのか?どうも都合がよすぎるような…」
「化け物は死んだんです。それより今はシドの弔いを優先すべきでは?」
こう言われて、ディエマもしぶしぶではあるが、従うしかなくなったようなしぐさをする。
そんなディエマに意地悪な笑みを浮かべシレイスが言う。
「ふふ…では、少々乱暴ですが三人で運びましょう」
腰帯と思われたものを外し、広げると大きなマントが現れた。
まさかの物出しに驚くハージンとは別の驚きを口にするディエマ。
「ど、どこへ?」
「師匠…ラリスと同じ所へ」
「いぃ!!マジで言ってる?あそこまで何分かかると思って…」
口に指を当てるシレイス。
「見ての通り村は無くなりました。理由はわからない…でも、私達がさっきまで居た場所なら、ここよりも安全である可能性が高い。それに、師匠の家なら食べ物があるはずです。それともアゼク村だったのかどうかさえわからなくなってしまった怪しい土地にシドを埋めますか?」
「確かに…」
ハージンがお腹をさすりながら、言った。
くぅう~~~~
鳴ったのはディエマの腹の虫。
皆、腹が空いていた…
吹き出すシレイス。
「体は正直ですねディエマ」
照れるディエマのふくれっ面。
「わかったよ!!行きゃいいんだろ」
言いながら、ハージンの肩をポンっと叩くと、
「なんで知ってるのか絶対思い出せ。記憶喪失って一言で片付けるには、詳しすぎるし、もしかしたら村の消えた原因がわかるかもしれないからよ」
「わかった。やってみよう」
イサイラスとは何者なのか…
本来、戦士の門をくぐらなければ、会うはずが無い存在…
村が無くなったことと、関係あるのか…
思いを巡らすも、何故そんな知識があるのかわからなかった。
化け物に変えられたと言ったが、実際にその現場を目撃しているかのような感覚があった。
それが何なのかわからない。
変えたのは自分?
そんな錯覚さえ起こしかねない記憶。
記憶?
本当にそうなのか?
「おい、しっかりと持ってくれよ!!」
ディエマの怒気を含んだ声が飛ぶ。
シレイスのマントの上に乗ったシド。
頭上をディエマ、足側の両サイドをシレイスとハージンの三点持ちで持ち上げようとしているが、ハージンの力が足りずに持ち上がらない上に、シドのバランスが崩れ落ちかけたのだ。
「すまない…」
ハージンが力を込めると持ち上がるシドの体。
流石に何分もかかる距離を引きずっていくわけにはいかない。
しばらく無言での行軍が続く…
そんな中、険しい顔で、取り繕うようなディエマの声が出る。
「重いな…」
「修業ですね…」
顔色さえ良ければ穏やかな寝顔にさえ見えるシドの顔を見ながら、歩くディエマの表情は、必死に堪えているようにしか見えない…
その表情を見ながら、シレイスも感情の高ぶりを抑える。
「せっかく、足が治ったのによぉ…」
「倒せはしませんでしたが、あの剣さばきは、凄かった…」
消えるように語尾がかすむ二人。
溢れそうになる感情を必死に抑えていた。
「俺にシドのような強さがあれば…」
「私にもっと勇気があったら…」
どうあがいても変わらぬ現実。
「俺がビビって無けりゃ…」
「私も…」
「それは違う!!!」
「え…!!?」
響くハージンの声に顔を上げるシレイスとディエマ。
「笑ってる…笑ってるじゃないか!!!」
感情も露わに二人に訴えるハージン。
「お前らが無事なのを確認して、シドの念は小さくなっていった…ホッとするのがわかった…お前らが生きる方を選んだ…いや、選んでくれたんだ…どっちを救うか迷ってた俺に道を示して、シドは逝った。お前らを悩ませ、苦しませる為じゃない…シドは何よりもお前らの無事を祈った…その思いを無駄にするな」
「く……!!!!」
腕で顔を隠すディエマ。
抑えていたモノが一気に溢れ出した…
「泣いてるのですか…」
「うるせぇ!泣いて何が悪い!!!」
「ダサいって言ってなかったですか?…悲劇の主人公」
「な、涙が止まんねぇんだ仕方ないだろ!!泣き切ったと思ったのによ…」
「私も悲劇の主人公になっていいですか…」
シレイスの頬にも涙が光っていた。
後悔しても始まらない…
頭ではわかってる…
けど、こうしていたら…
考えてしまう
罪の意識が消えないのはハージンも同じだった…
(神速を使って三人とも助けられなかったのか…)
三人とも安易に動かせる状態では無かった…
神速の移動など耐えられない状態だった…
言い聞かせるも、
(何か方法があったはずだ…)
答えを求めてしまっている自分が居た。
安らかなシドの表情は、いつまでも三人の心に後悔の念を抱かせ続けた…
~続く~
