さて、憲法の改正と言うと、どうしても9条(とりわけ2項)ばかりに焦点が当てられがちですが、今回は、あえて9条には触れず、自民党が作った草案が、いかにトンデモないものであるかを見ていきたいと思います。
「憲法は一番強い法律」だと勘違いしている人がいますが、憲法は法律ではありません。
刑法、民法などは法律(社会の秩序を守るためのルール)ですから、例えば殺意を持って人を数人殺したら、刑法199条の「殺人罪」に問われ、無期懲役や死刑を課せられるという究極の人権侵害を受けます。
殺人罪は、国会と言う国家権力が制定し、その者を逮捕、拘束するのは、警察、検察という行政機関で、そこが集めた証拠等を検討し判決を言い渡すのが、裁判所の役割です。
法律とは「国家権力が国民に対し自由や権利を制限する法規」だと言えるでしょう。
さて、じゃあ憲法って何だ?って話になりますよね。
大前提として押さえておきたいのは、
「憲法とは、国が国民に○をしろ、□はするな、△であれ、などと命令するようなものではなく、“国家権力を縛るもの、国家権力が暴走するのを止める役割を持ったもの“だと言うことです。」

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自民党の憲法草案は、まずこの大前提に立っていません。(笑)
イロハのイが間違っているため、国家権力を強め、人権を制限するような前近代的な価値観に立ったろくでもない代物に仕上がっています。
具体的に少し見ていきます。
自民党憲法草案 第12条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。
国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、
自民党案は、「国民の不断の努力」を要求しており、「努力しないような国民には、自由も権利もないよ」、「濫用なんかしたら取り上げちゃうよ」と言っています。(笑)
また、
自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し
「責任を持たず、義務を果たさないような奴には、自由も権利もないよ。このことをしっかり自覚しておくように」、とも言っています。
常に公益及び公の秩序に反してはならない。
これは怖いですよ。
例えば安倍さんが、
「A氏の言動は、目に余るものがある。これらは公益や公の秩序に反する可能性がある」
と判断した場合、Aさんの自由は奪われ(国家権力の一つである警察による逮捕)、裁判を受ける権利さえはく奪される可能性があることを示唆しています。
その他にも、
第3条2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。
第24条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
第102条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
特にヒドいものを幾つか抜き出しました。
詳しくコメントしていたら、キリがないので、ざっと触れておきます。
「日の丸に代わる新しい国旗を作ってみる」という団体を作っても、現行憲法では、「表現の自由」や「集会・結社の自由」が保障されているので、何の問題もありません。
でも、自民党憲法草案には、
第3条2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。
とあるので、内乱予備罪、内乱陰謀罪等で捕まる可能性が出てきます。(笑)
国旗、国歌を認めないような団体によるデモ、ストライキ、集会は憲法違反。

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多様な価値観や多様性を認めることで、国家としての寛容さを示し、永続性を確保するという謙虚な姿勢はみじんもなく、保守、右翼の価値観に合わないものは、憲法違反だと切り捨てる傲慢な態度が透けて見えます。
家族は、互いに助け合わなければならない。
憲法は道徳の教科書ではないんですけどね。(笑)
「家族がいるにもかかわらず、互いに助け合っていない」との理由で、生活保護の受給を打ち切られる人が増えそうです。
要は、「生活保護?失業中?母子家庭?国に頼るなよ。族で何とかしろ」と言うことです。

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現行憲法にも「国民の義務」を定めたものがあるじゃないか、ですか?
確かに、日本国憲法第3章は、「国民の権利及び義務」について書かれています。
でも、憲法の権利と義務は並立関係ではなく、権利が義務に優先します。
憲法は「国家が国民の権利を制限することは許されない」としていますが、どうしても権利を制限しなくてはならない場面が出てくることがあります。
その場合に、その例外を認めるために、憲法が定めるのが義務の規定なのです。
具体的に言うと、国民には「財産権」が保障されているので、国は国民の財産を奪うことができません。
でも税金を納めてもらわないと、国の運営ができないので、財産権の保障の「例外」として定めたのが納税の「義務」なのです。
「教育を受けさせる義務」も同じことです。
標準的な学校教育を受けなければ、子どもの健全な「成長する権利」が著しく侵害されてしまいます。
ですから、親が例えばAと言う宗教を信じていて(信教の自由)、そこの教えで「学校には行くな」と言うものがあったとしても、子どもの成長する権利、教育を受ける権利の前では、親の信教の自由は、この際少し引っ込めてください、というのが「教育を受けさせる義務」なのです。

出典:www.irasutoya.com
自民党憲法草案は、国民の権利が義務に優先するという現行憲法の精神を受け継がず、国民の義務が大前提で、それを果たさないと自由も権利も保障しないよ、と国家が国民に命令、いや恫喝しているヒドいものです。
主権が国民にないようなものは、民主主義国家の憲法ではありません。
徴兵制を考えてみましょう。
現行憲法は、第18条の、
「その意に反する苦役に服させられない」
また、13条の「すべて国民は、個人として尊重される」
に抵触するので徴兵制を成立させることはできません。
ところが、自民党草案は、
常に公益及び公の秩序に反してはならない。
と書いています。
安倍さんが戦争をやりたくなって、でも自衛隊だけでは兵力が足りないと考えた。
自民党草案によると、「公益、公の秩序」は、国民の人権(生まれながらに手にしているはずの権利)に優先しているので、「国家のため」と言われたら、国民には自由も権利もないことになります。
「徴兵制度」は、自民党が作った憲法では完全に合憲なので、何の問題もなく成立させることができます。
この参院選で、自民党が大勝したら、与党は安倍さん主導による憲法改正へまっしぐら。
万が一、大敗したら、安倍さんは責任を取って辞めざるを得なくなりますから、そうなると、これまで息を潜めていた自民リベラルの声が大きくなる可能性もあり、共闘して戦った野党との関係性を考えると、非常に面白い展開になりそうで、僕は楽しみにしているのですが。
二大政党の一翼を担うと期待された(旧)民主党に政権担当能力がなく、多くの国民が失望しました。
よって、投票するに足る党が見当たらず、仕方なく自民党に入れるという有権者も多いでしょう。
でも、すでに書いたように、自民大勝は憲法改正に直結します。
あくまで「草案」だと安倍さんは言います。
「議論をいただくたたき台の役割を果たしている」とも。
でも、立憲主義に立脚していないこんな草案の、どこをどう変えたところで、まともな憲法になることなどあり得ません。