一般的に、定年をあと数年で迎えるような年齢になると、男性であっても、

重い家具や荷物を運ぶ引っ越しは大変に決まっている。

 

この度、長男が住んでいたアパルトマンの契約終了にともない、

部屋を空にして、きれいに掃除をして出なければならなくなった。

夫が長男に、「一時的に保管しておく荷物があれば、家で預かる」と言った。

長男が私に日本に一時帰国した時のお土産として頼んでいたものを

渡しに行ったのが、約2週間前。そのとき、いくつかの家具と段ボール箱を

預かることになり、夫も一緒に来た。

夫と長男、男二人が家具や荷物を運び、私は軽いものを運ぶのと、

エレベーターや建物のドアの開け閉め、荷物の見張り役を頼まれた。

 

そして金・土・日と、夫は引っ越し最終日の今日に向けて、手伝いに通った。

私が「私も行こうか?」と尋ねると、夫は「来なくていい」と言った。

大きな家具もあるし、段ボールがいくつになるかわからないから、

車の中のスペースを空けておくことを最優先にしたい、という理由だった。

 

長男は、近日中にバイオリンを弾く大事な機会があるうえに、

それが、ちょうど引っ越しの時期と重なってしまった。

もし、私が数日後に人前でクラシックピアノを弾くことが決まっているとしよう。

それが引っ越しと重なったら、イライラすると思う。

昨日、夫が帰ってきてから、長男はイライラしていなかったかと聞いた。

すると夫は、少しいら立っていた長男にアドバイスをしながら、

能率よく、リズムよく片づけていったという。

この夫は破天荒で、映画の役なら絶対に悪役しかない。

今まで、大変な目に遭わされたことも、数えきれないくらいあった。

そんな夫だけれど、

 

「今日は世界で一番いいパパの一人やったね」

 

と思ったことを伝えた。

無口な人だから、返答なんて、もちろんない。

でも、なんとなく伝わった感じはあった。

 

――この年で、よう引っ越しを手伝えたな。

 

――年を取ってから子どもを持つと、こういうことも起こる。

 

――夫は、子どもの面倒はよく見る人なんや。

 

本当によく頑張った、と思う反面、もうひとつ、内なる言葉が聞こえた。

 

――ちょっと、今までの埋め合わせになる・・・