あまり行かない町の、庶民的な地区にあるパン屋に入った。
トラディションという昔ながらのバゲットを売っているか聞いてみたかったのだ。
その店には、パン屋と同じ故郷らしい顔なじみの客が多いようだった。
わたしの前にいた客と店員は、どこの国の言葉なのか、
わたしにはわからない言語で楽しそうに話していた。
その客が帰ると、店内にはわたし一人だけが残った。
そこでわたしは尋ねた。
「トラディションはありますか?」
「ありますよ。」
「いくらですか?」
「2ユーロです。」
わたしは特に何も考えずに質問していたのだが、その値段を聞いて思わず耳を疑った。
トラディションが2ユーロもするなんて聞いたことがなかったからだ。
そこで聞き返した。
「パルドン?」
すると、さっきまで知らない言葉を話していた店員は、ふっと笑ってからこう言った。
「いいえ、1ユーロ30です。」
わたしが顔なじみの客ではなく、この店にトラディションがあるかどうかも知らない、
世間知らずでだまされやすそうな外国人のシニアに見えたのかもしれない。
もしわたしが何も言わずに2ユーロを差し出していたら、
彼は「違います、1ユーロ30です」と訂正しただろうか。
それとも内心、「ちょっと売上が増えたな」と思っただろうか。
もちろん、本当のところはわからない。
1€30のパンに対して2€と言う値段は冗談にしては妙に現実味があった。
だから少し疑心暗鬼になった。
でも今は、おかしいと思ったら聞き返せる。気がつけば、わたしも
ずいぶんたくましくなった。
そして、まだまだ成長したいと思っている。