エスプリ「片手しか使えない状態」
右手の指を一本、ケガしている。
たった一本。
鍵盤の上で、指が一本欠けるだけで、
音楽の仕事をしている身としては、なかなか厄介な状態だ。
思うようにいかない日が続くと、気分もふさぎがちになる。
親切
それでも、ジャズのことを知りたいわたしは
動画を見たり、日本のジャズスクールのオンライン授業に顔を出したり。
先日、フランスの祝日でアンサンブルの授業が流れ、
2回ほど欠席することになった。
何をやったのか聞こうと、同じクラスのピアニストにメッセージを書こうとした、その矢先、
もう一人の男性ピアニストのほうから、先に連絡が届いた。
ケガを気遣う一言と、授業で配られたスタンダード、演奏した曲。
必要なことが、まるで当然のように、簡潔に、しかし十分に書かれている。
こういう「押しつけない親切」は、いかにもフランス的だと思う。
やさしさを、やさしさとして大げさにしない感じ。
変化球の返し
野球でもふつうは足2本を地面につけたままバットを振るが
一本足打法をした選手がいたよね。そんな風に、
春のバカンスのあいだに、右手でも二本指だけで弾ける奏法、
三本指奏法・四本指奏法と指をやりくりしながら、何かできるか試してみるつもりだと
わたしは彼にメッセージを書いた。
返事は、驚くほど早かった。
スマイルマークと、それから一言。
「ラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲なら弾けるよ」
思わず、笑ってしまう。
慰めでも、根性論でもなく、
さらりと別の視点からのアイデアを差し出してくる、この感じ。
「できないこと」に寄り添うのではなく、
「じゃあ別のやり方で」と、軽やかに方向を変える。
ああ、なるほど、と思う。
こういう発想の転換こそ、エスプリというものかもしれない。
「たしかに、その通り!」と、こちらも にこやかに返す。
深刻になりすぎない、この距離感が、妙に心地いい。
でも、なぜか幸福感がどっと押し寄せ、涙で目が潤んだ。
コンサートの予告編 byアレクサンドル・タロー
このコンサートは本当に素晴らしかったそうだ。
わたしが去年聴講していたジャズ編曲クラスの先生がこのコンサートを
聞きに行かれてそうおっしゃっていた。ちなみに、その話を聞いたとき、
このコンサートではないが、ずいぶん昔に、このピアニストが出演する
コンサートのピアノを調律した調律師さんがわたしの横にいた。