わたしは今、重い荷物をしょっている。
今日、同僚と一緒にお弁当を食べた後に、
仕事関係の打ち合わせをしていた。
歌の曲を選んでいたが、わたしが選んだ曲を見ていたので、
「(ピアノで)弾いてみたら?」
とわたしは言ったが、彼は静かに言った。
「(楽譜を見ただけで)聴こえるから、大丈夫。」
「ここの音がいいね。」
彼が言ったので、わたしが答えた。
「それはナポリの6ね。」
少し話がそれた時に、彼はわたしが、現在、重すぎる荷をしょっていることを
すぐ理解してくれた。
彼が数年前に同じような荷をせおうことがあった。
だから、すぐに彼はわたしがどういうシチュエーションにいるかわかったのだ。
わたし達は、自分がこの状況に面して、はじめて大変さが分かるというところで
同意した。彼も通った道なので、ひとつアドバイスを受けた。
話しがバッハ作曲のサン・マチューの話になった。
彼は
「これのこと?」
と、暗譜で美しいサン・マチューの曲を弾きだした。
「素晴らしいね。覚えて弾けるのね。」
わたしが驚いていると、
「たくさんの曲が弾けるように見せているだけだよ。」
と、冗談にも、本当にもとれるように、ふと微笑んで言った。
前にも、彼は同僚たちの前で、暗譜で、いきなり、話に出たところの何かの曲を弾きだした。
彼は音楽の記憶の達人かもしれない。
わたしが頭の中の構造がどうなっているかと思うジャズピアニスト達のように、
記憶の達人なのかもしれない。
フランス語で言うサン・マチューは日本語ではマタイ受難曲。