今日はとてもいい天気だった。
生徒が「30度あるよ。」と言っていた。
いつもは寒がりなのでズボンをはくが
今日は、教室が暑くなるだろうと思って
薄い色のフリルスカートをはいてサンダルを履いていった。
短めのちょっとあらたまった紺色のカットのいいTシャツに
水色のネックレス、大きいふちの白い帽子もかぶって行った。
授業が終わって、駐車場に行くと、ものすごい
大きいバスが止まっていた。中からアジア人の男性が
出てきて、わたしの方に向かってきた。
『地図が読めない女』なる表現を日本にいた時に
見たことがあるが、わたしはずっと、自分は
『地図が読めない女、方向の表示が読めない女』だと
思ってきた。夫に 早く方向の支持をするようにと
いつも小言を言われてきたからだ。
日本人女性のお友達がシャルルドゴール空港まで運転できると
聞いたときは、尊敬に満ち溢れたまなざしで見たし、
ほとんど180度に近い角度で曲がる近くの
上り坂は一生かかっても運転できないのでは
ないかと思っていた。だから、車の中にいる時は
誰か知らない人が来ると、心配になる。
年のころ40才すぎに見えるそのアジアの男性は英語と
きれいな発音の、でも片言のフランス語で、旅行予定表のような
ホッチキスで止めた紙を持っていた。
中国語がぎっしり書かれているところに
フランス語で宿泊先の住所が書かれていた。
嫌な感じはしなかったが、わたしを頼みにしている、
そんな感じがひしひしと伝わった。
その人は言った。
「ここに行きたいのだけれど、道が狭すぎる。」
町の名前は知っていたが、行先の住所も、名前も
聞いたことがなかった。そこは知らないとわたしは
答えたが、彼は後に引かずに、
「この宿泊先の人と話した方がいい。」と言って
勝手に電話をかけ、わたしに携帯電話を渡した。
受け入れ先の人は、わたしに運転手の奥さんかと、
とんちんかんなことを聞くし、全然知らないところなのに、
知らないと言ったら、それならと、わたしが
おおよその方向を知っているくらいの駅の名を言って、
そこまで来たら電話をするようにとわたしに頼んだ。
わたしは、その駅に行ったことがあるのはいつも、
道に迷った時に限る。間違ってその前を通ったことがあるだけで、
偶然の他にはたどり着いたことがなかった。
わたしが、内心はそこまでさえもたどり着けるかどうか心配しながら
「向こうの言っている駅まで行きましょう。」と言うと
にこやかな育ちのよさそうなアジア人の男性は、
「あなたについていきます。」と英語で言って、
お仲間のバスの運転手とかに、
「このladyについていきますよ。」
と声をかけた。運転手はフランス人の顔だちをしていた。
ここで、ふと、このアジアの男性が、他の人にわたしのことを
話すときは、わたしのことをladyと連呼していたのに気がついた。
単にフランス語で言ったらdameのこととは思いつつ、
日本語の語感ではおしゃれな若いお嬢さん、みたいな感じがして
悪い気がしなかった。
そのレディは、道を間違って行きたい方向と違う方向に
クルマを走らせてしまったが、それが幸いして、その超大型バスは
しかるべき方向に向かう道を走る結果になった。
何が幸いするかわからない。そして、レディは方向の表示が読めた
ことに満足して、ちょっと運転することに自信を持った。