フランスで一人目のこどもを産んでから、心配したことがある。
「人種差別」のことだ。この子が他のこどもと関わるようになった時、
なにかしらいじめのようなことにあいはしないか、心を傷つけられる
ようなことはあるまいか、ただ、見かけがフランス人と違うと言うだけで
他の理由など何もなくても。
長男を出産した町で、アジア人の女の人にふいに声をかけられた。
人のよさそうな優しい笑顔のその人は、わたしにどこの国から来たか
ときき、日本人なら知り合いがいると、親切にお友達を紹介してくれた。
わたしは、わたしよりずっと長くフランスに住んでいる、その日本人の
Sさんに出会うことができた。ある日、心配していたことを尋ねてみた。
「こどもの学校で差別はあるんでしょうか?」
Sさんは「ありますよ。」と率直に答えてくれた。
その言葉どおりに、幼稚園の年長さんのとき、クラスで悪質ないじわるが
あった。小さな町の小さな幼稚園のこと。ヨーロッパ人とは見た目の違う
二人の子供がいた。ひとりはうちの長男で、もう一人は両親がアフリカ
出身のH君だった。
長男は休み時間のたびに、いじわるグループの子にやれ、日本人、やれ、
中国人と言われながら、意地の悪いしかめっつらを、かわるがわる、
いれかわりたちかわり続けざまにされていたそうだ。H君にもそうだった
らしい。肌の色が黒いだけでうOちのにおいがするとか、ひどいことを
言われていたということを後で知った。
当時わたしは、長男が、時々 変な表情をすることに気がついていた。
ある夏の昼下がり、マンションの公園で長男を遊ばせようとカーヴ
(地下室)においてあった息子の自転車をもって外に行こうとした。
その時、同じ幼稚園の年中の女の子の声がした。「あの子は中国人。」
(続く)