学生時代の部活動

 

親戚の青年が、親戚の老人たちに部活動をやめさせられた話。



母方の親戚は、祖母が十人兄弟(姉妹)だったのでたくさんいた。



その兄弟姉妹たちは、何故か産まれた順で、上のほうの人々は世間的に見ると「エリート」、下の方の人々は「落ちこぼれ」という、変なヒエラルキーができていた。



(ちょうど真ん中あたりに位置した祖母は、どちらでもない「異端児」だったが、今回はその話は置いておく)



「下層」のほうのおじさんの息子だった件の青年は、私の一回りぐらい年上だった。



「頑固一徹」から取った徹(トオル)という名前を付けられ、生徒会長をやったり、ある時までは活発な優等生であり、自慢の息子だったらしい。



その両親はドライブインを経営していた。

当時とても繁盛していたらしいのに「上層」のほうの人々にはいつも「お前は大学まで出てるのにいつまでラーメン屋なんかやってるんだ」と見下されていた。



そういう仕事をしているから当然料理が上手で、遊びに行くといつも美味しい手作りゼリーなどを食べさせてもらえたから、幼い子どもだった私は「上層」の人々より、こういうおじさんのほうが好きだった。



けれど、やはり事件は起きてしまう。

ある日、遊びに行くと「上層」のおじさんが二人来ていた。



具体的には「某有名大学の教授」と「某大手飲料メーカーの重役」で、揃って眼鏡に白髪、風貌もよく似ていた。



「勉強(学歴)と肩書がこの世の全て」と考えるこの二人が、最近卓球に打ち込んで成績が下がってしまっているトオルさんに「卓球なんかやめて勉強しろ」「これでは将来困るぞ」と詰め寄っていた。



最初は抵抗していたトオルさんも、この状況を見ても黙って俯いて助け舟を出さない両親を見て諦めたのか、やがて静かに部活をやめると言い、そのまま部屋にこもってしまった。



部屋で悲しそうに卓球のラケットを見ていたトオルさんの姿を、私は今も忘れられない。



少しして、トオルさんが荒れているという噂が聞こえてくるようになった。



「あの家にはしばらく行ってはいけない」と言われ、直接いろんな変化を目にしたわけではないけれど、重大事件とまではいかないいろんな非行に走るようになったという。



人間には得意なことがあり、必ずしもそれが「勉強」とは限らない。

トオルさんの場合、スポーツを伸ばせたら良かったかもしれない。



得意なもので生きていくのは勿論難しいけれど、それを潰してまで「鋳型にはめる」ように他の物に目を向けさせようとすると、場合によっては壊れてしまうこともあるのだ。



トオルさんの非行の発端はおそらく例の事件であり、周囲への助けを求める声というか、サインでもあったように思う。



けれど、多分それに気付く人は誰もいなかったし、気付いたとしても自分達の正しさを決して疑うことのない「上層」の人々がいる手前、行動を起こせる人はいたかわからない。



後年、私自身も随分「教育虐待」を受けたが、非行に走らずに勉強を「家(親族)から逃げ出すための手段」と考えるようになった根底には、間違いなくこのトオルさんの出来事があったように思う。




 

 

 

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