9月9日


館に入ろうとして、オデュッセウスはそこにいる犬に気づく。


ἂν δὲ κύων κεφαλήν τε καὶ οὔατα κείμενος ἔσχεν, (17-291)

横たわっていた犬が頭と耳とをもたげた


Ἄργος, Ὀδυσσῆος ταλασίφρονος, ὅν ῥά ποτ᾽ αὐτὸς
θρέψε μέν, ο
ὐδ᾽ ἀπόνητο, πάρος δ᾽ εἰς Ἴλιον ἱρὴν (17-292,3)

アルゴスという名の忍耐強いオデュッセウスの犬で、それをかつて彼自身が

育て、まだ役に立てないうちに貴いイーリオスに(出征したのだった)


「頭と耳をもたげたκεφαλήν τε καὶ οὔατα ἔσχεν」も情景が浮かんでくるようだ。

そして続ける。


「そこに犬アルゴスは犬虱にまみれて横たわっていた。近付いて来るオデュッセウスに気づいた時、尻尾を振り、両耳を垂らした。しかし、主人に近寄って行くことはかなわなかった。彼(オデュッセウス)は離れたところで見て涙を拭った」(17-301~4)

そして二人が館に入ると、


Ἄργον δ᾽ αὖ κατὰ μοῖρ᾽ ἔλαβεν μέλανος θανάτοιο,
α
ὐτίκ᾽ ἰδόντ᾽ Ὀδυσῆα ἐεικοστῷ ἐνιαυτῷ. (326,7)

アルゴスを黒き死の定めが捉えた

オデュッセウスを二十年振りに目にしたその直後に


犬好きは勿論、犬好きならずとも忘れがたいシーンだ。


先に『イーリアス』『オデュッセイアー』両詩編の比較で、犬の扱い方の違いについて触れた(1月31日の項)。そこで前者の犬は否定的イメージが濃いのに対し、後者では人に親しい動物だと述べた。この一節を見ると「親しい」では留まらない、もっと深いものを感じる。オデュッセウスの帰郷に当たって肉親との再会が痛切であることは勿論だが、この愛犬アルゴスとの再会もそれに匹敵する痛切さがある。