次生はミチコとミチコの妹のキミコと三人体制でWinkを営業していた。
二人が店頭に立てば一人は2歳のコノちゃんを担当する。
ある日、次生はWinkをミチコとキミコに担当してもらって日課のコノちゃんと散歩である。
シャトレ月輪のマンション前が小学校である。小学校の校庭の東側の突き当たりフェンスに扉があり開けると東福寺の境内の古ぼけた小さな橋がある。
12月ともなると、その小橋から見える東福寺の紅葉は美しく華麗で見惚れてしまう。
全国からいや、全世界からこの絢爛豪華な赤色の世界を一生の思い出として参拝者が後を絶たない。
コノちゃんと散歩する次生。
あ〜あっ!
コノちゃんがいつものように境内に佇む一台の自動販売機を見つけるやいなや。
小走りに砂利を毛散らかし走っていく。小さな砂煙が舞う。観光客が微笑む。
これっ!と、ジェスチャーするコノちゃん。
右手人差し指をピンポイントで例のドリンクを指差す。
まだ上手く飲めないのに?は〜っ。
次生は、100円を入れた。
ワタシがワタシが押すーーーー。
言葉は言えないが仕草でわかる。
多少興奮しながらジェスチャーでわかる。
自分がボタンを押すと。
自動販売機のリアルゴールドリンクがお好みである。
次生は、小さなコノちゃんを抱えてリアルゴールドのボタンを押せるように。
小さな手の指が、ポチッと。
ガッシャーン!
自動販売機の受け取り口のプラスチック板の向こうにリアルゴールドが。
次生はこのままではコノちゃんは、リアルゴールドが取れない。
そっと、プラスチック板を押し、カタンっ!
リアルゴールドが出てくるやいなや、小さな手がドリンク瓶を器用に引き出し、飲む飲むとジェスチャーをとる。
次生は、ドリンク瓶の小さなキャップをあけにくな?いつも、これ、何とかならんか?と思いながら滑らないようにキュッキュと人差し指と親指の指先に力を込める。
下から空を見上げるように、コノちゃんはキャップの開いたドリンクを見つめている。
リアルゴールドを渡すやいなや、カッぷっと小さなおちょぼ口がリアルゴールドを丸飲みするかのように、コノちゃんは口に含む。
あ〜またや、また、ベチャベチャやん!
上手く飲めないのだ。飲み方がわからないのだ。
次生はわかっている。コノちゃんがリアルゴールドを飲めないことを。
二口三口丸飲みし、ベチャベチャにしながらプイっと次生に渡すのである。気が済んだようだ。
次生は、8分目くらい入っている瓶を一気に飲み干しこの瓶を又、コノちゃんに渡して飲み干した瓶を小さな手で掴みながら抱っこされながら、ボトっと空き缶・空き瓶のゴミ箱に入れて散歩が終わるのであった。
二人で手を繋いで帰ろうとすると、コノちゃんは一歩も動かない。
リアルゴールドをゴミ箱に入れた時点でコノちゃんは動かない。
抱っこである。
次生は、抱っこしながら重くなったな?と思いながら娘の成長を感じるのだ。
シャトレ月輪が見えた。あれは?康三と?
マンション前の駐車場に見慣れた顔が、康三と二男である。
えっ?またや?呼んでないけど?
康三は結婚式には、弁護士を次生が参列させた手前、出席して食べるだけ食べて披露宴を後にした。
二男は結婚式も参加していない。
次生は当然、4女と二男は呼んでいない。
東京に住む加瀬由紀子夫婦も松本家の揉め事に巻き込まれるのを恐れ理由を付けて不参加した。
このように四面楚歌の中、やっと二年が経過し次生が披露宴、引っ越し、子供服店を開店し、順調な日々を暮らすようになってから、何事もなかったように目の前に現れるのである。
厚顔無恥とはこの事である。
次生は、仕方なくマンションに入れた。
厚かましいにも程がある。
コノちゃんは見知らぬ顔にもニコニコビームを発射し続け、康三の膝にスッポリ座った。
喜ぶ康三。
アホ面でその様子を引きつった笑顔で見る二男。
はよ〜帰れーーー。と天に願いを立てる次生。
ひと通りマンション内を偵察し、二人はどこぞに帰っていった。
なんで?来る?
次生は、ぐったりとため息をついた。