暑っついなーしかし。
神崎浜は素足では絶対に歩けません。
ボクは17歳の夏、１ヶ月民宿のバイトをしていたのです。
例の東山高校の4人組の大槻の紹介でありました。
なぁ〜なぁ、ツギオ？夏休みな、民宿でバイトせーへんか？
民宿でバイト？
せや、オヤジが行けって言うねん。
聞くと大槻のオヤジの友人が営んでいる民宿らしいのです。
住み込みやけどな、何でもかんでも食べていいねん。タバコもタダやし。飲み物もタダ！
コーラとバヤリースあるか？
ある！ある！
タバコタダなん？
タダや！
行こ行こ！
と言うわけで大槻のオヤジのクルマが夜中に、迎えに来て、昭和49年8月1日早朝京都府丹後神崎浜に降ろされたのであった。
あーご苦労さまです。わざわざ大槻さん、ありがとうございます。
コレ？息子と友達やし。宜しゅう頼むわ。
はーようこそ、遠いとこありがとうね、ボン。
中々感じの良い丸坊主のオッサンです。
ほな、頼むでー。
大槻のオヤジはすぐに帰りました。
さっきの丸坊主、大槻のオヤジを見送ると豹変します。
さー何グズグズしてんねん、遊びに来てるのちゃうどー。
はよ、荷物持ってこっちや。
浜を歩いて行きます。松林の奥にポツンと平屋建ての小屋があります。汚い小屋です。
荷物おいて、表まではよ〜来いよ。
大槻と顔を見合わせます。
な〜大槻？帰らへんか？このまま松林通ったら民宿の前で丸坊主に合わんと逃げれるやろ？
アカンて、ツギオー。大槻も弱っています。
帰ったら俺どないなると思う。
どないなるねん？
１ヶ月オヤジに殴られまくるな。
ゲームセット。
大槻も大きな身体ですが、オヤジはもっと横幅もあるし、力士みたいやし。
な、な、１ヶ月なんてすぐに経つし。
なんか、説得してます、必死でボクを。
わかったわかった。といいながら汚い平屋のドアを開けます。
部屋は布団が引きっぱなしでなんか、臭い。
兄さんが寝転がってマンガ雑誌を読んでます。
誰や？あんた？ボクが優しく尋ねます。
アーご苦労さまやな。オマエラか今日からか？民宿バイト。
せやで、あんた誰？
あー僕は、大学生。今日で交代や、あんた達と。
いつから来てたん？偉そうです、ボク達。
7月15日からかな？
えっまだ2週間しか経ってないがな？
なんで帰るん？
卒論や、卒論。
なんや、卒論て？
卒論出さないと来年卒業でけへんからや。
京都帰ったら書き上げなあかんのや。
えっ？今帰るん？
そーや、あんたら来るの待ってたんや。
あんた1人でバイトしてたん？
いや？3人でや。なんでや？
ほな、後2人は？民宿にいてバイトしてるん？
いや？
いや、て。どこにいるん？後2人。
知らん。
知らん？
なんで知らんねん。
知らんもんは知らん。ほなな、お気張りやす。 ボストンバッグをヒョイと肩にかけ、なんか足早に砂煙を上げて去って行きました。
後からわかったのですが、この兄さん、大学生ではありませんでした。バイト情報誌見て神崎浜まで汽車に乗って来たのだそうです。
逃げたんです。民宿のバイトキツイから。
悪いヤツです。根性無しです。年上やのに。
後の2人は2日目にはいなくなったそーです。
皆さんはタコ部屋って聞いた事ありますか？
タコ部屋とは、
タコ部屋労働は、主に昭和中期に北海道の非人間的環境下で労働者を身体的に監禁・拘束して行われた過酷な肉体労働である。
タコ労働とも呼ばれていたのです。
まさしくタコ労働だったのです。 民宿。
毎日のルーティンは、朝早く6時起床。
まず、大浴場の掃除から始まります。
朝ごはんの配膳、布団の引き上げ。シーツの交換。シーツの洗濯。シーツ干し。
朝ごはんの引き上げ。昼食の仕込み。
昼食は雑貨屋も兼ねていた20人くらい入る食堂でのカレーの仕込みから揚げ物の準備。
昼食片付けた後、浜でボート出してお客さんを乗せます。
1時間500円で約10ボートありました。
夕方には夕食の仕込み、配膳。
夕食引き上げて布団敷き。
これが毎日毎日１ヶ月。
確か1時間いくらではなく、1日1000円くらいです。なに？1日1000円？8月の１ヶ月間のバイトで封筒に3万円はなかったし。
しかし、ボクは賢いからー。
はい、ボートね、何時間？1時間。2人やね？
ほな、1000円やし。まいどー。
ホントは1時間何人乗っても500円。
あーボートね、何人？4人ね。ほな2000円やし。まいどー。
てな具合です。
溜まったお金は7万はありました。
あーしんどかったけど。コーラもバヤリースもコーヒー牛乳もラーメンもタバコもタダやったし、民宿行く時、お母ちゃんからもらった小遣いもそのままやし。お金一切使わへんかったし。小金持ちで二学期が始まりました。
ありがとう丸坊主！ありがとう神崎浜。
サンキュ