志乃さんは死ぬ。
詳細は尋ねないから、
もしかするとごく初期のものかもしれない。
だけど尋ねないから、
近く死んでしまうのかもしれない。
ほんらい違う世界に生きていると思う。
華やかな経歴の彼女、
はつらつと明るくスポーツも好み、
知人もみな洗練されているふうの彼女、
もちろん僕と通じ、繋がるのだから、
暗い出来事を胸に抱いてはいるのだけど、
志乃さんには僕は日常ではない。
獰猛なエネルギーに溢れる、
美しいまでに残酷なひと。
志乃さんに病が見つかったと聞いて、
彼女の婚約者は泣いたという。
それを見て志乃さんは笑ったという。
持っているものを志乃さんが全て発揮すれば、
僕など跡形もない。
消し飛ぶ。
なぜあんな男に心を開いたのだろう、と、
音にならない舌打ちをして、
振り返ることも思い出すこともないだろう。
僕は笑う、泣かない。
志乃さんが死んでも笑う、泣かない。
何ものにも囚われず、
あらゆるものを散華させていく志乃さんを、
僕は見つめていたい。
さぞ美しいだろう。
僕一人の感情で至上の美を阻んではいけない。
志乃さんが死ぬまでに一度会いたいとは思う。
だけど僕のほうが先に死ぬかもしれないし、
それにどちらにしろ大して変わらない。
でも、
この世には志乃さんがいたことへ、
感謝する言葉を直に届けたい、
そんな単純なものもまたかけがえがない。
僕は、
美しいものに触れるためだけに生きている。
何もかもがどうでもいい中で、
ただ、
酔わせてくれるひとに惹かれている。