-死合わせ-


「あたしの勝ちだね」

刀を首筋に当てられ、私は動くことが出来なかった。いや――当てられていなくても、もう動けなかっただろう
《断罪》で負った傷と斬り飛ばされた腕の切り口から血をかなり失ってしまっている
少しずつ、少しずつ身体が冷たくなっていき、死が近づいてくるのが分かる

「……やられましたよ、巫先輩。私の――負けです」

燃えるように紅い、巫先輩の瞳を見据える

「殺してください」

私は覚悟を決め、そう口にした
そして――ゆっくりと目を閉じた

暗闇が広がり、そこに――、一人の少女が姿を現した
私と同じ、薄ピンクの髪の毛
そして――私と同じアクセサリーを付けている

「日影……?」

そこにいたのは紛れもない、妹の――日影だった
走馬灯とはまた、少し違うような気がする
それでも私の心は、もういなくなってしまった妹に会えた喜びが半分。復讐を果たせなかったことによる罪悪感半分あった
日影はゆっくりとコチラに近づいてくる
いや――近づいてくるっていう表現は、少し、オカシイかもしれない

『お姉ちゃん』

日影の瞳は私と違って、どこまでも純粋で――透き通っていた
ふわっと日影の髪が舞い、その小さな身体が私を優しく包み込んだ。幻だとは分かっている。でも――そこにはちゃんと日影のあたたかさ、ぬくもりがあった

「ごめんね、日影……」

気づくと私は涙を流しながら謝罪の言葉をこぼしていた

「お姉ちゃん、復讐……出来なかったよ……。日影を殺した犯人に復讐……出来なかった……」

日影は無言のまま、私を抱きしめ続けてくれる

「私……わた…し……」

『もういいよ、お姉ちゃん』

私を抱きしめたまま日影は言葉を紡ぐ

『私のために――ありがとう。もう復讐なんてしなくてもいいよ。私はね、あの頃みたいに優しい――私の大好きなお姉ちゃんのままでいて欲しいの』

「私は――もう、復讐しなくても……いいの?」

顔をあげるとにっこりと笑う日影の顔が見える

『そうだよ、お姉ちゃん。太陽みたいに眩しい笑顔をするお姉ちゃんに戻っていいんだよ。この世界ではもう、無理かもしれないけど、次の世界ではきっと戻れるから』

次の世界では――
あぁ、そうだ――。思い出した
この世界は狂っているんだ
何度も、何度も同じ時間を狂ったように繰り返している

『バイバイ。私の大好きな――お姉ちゃん。また、いつか、どこかの世界で会おうね』

目の前が一瞬光に包まれ、次の瞬間には日影の姿は無くなっていた

「バイバイ、日影……」

目を開くと巫先輩の姿が刀を構えているところだった
ずいぶん長い時間だったような気がしたのだけど、そう時間は立っていなかったらしい

「先輩……」

巫先輩の手がピタリと止まる
何かが違う、私の雰囲気を察してくれたのだろう

「こんなことがなければ……巫先輩とはもっと仲良くなれていたかもしれませんね」

「……そうだね。あたし達はどこか似ている。似た者同士、仲良く出来たかもね」

「だから――次の世界では、似た者同士、仲良くしましょう」

私はそう言い、再び目を閉じた

「あぁ。次の世界でまた会おう、日向」

ビュンと刀が振り下ろされる
私はこのまま、この世界から退場する――


はずだった


ズガァン――という轟音と共に、ドサッと何かが倒れる音が聞こえた

「え……?」

目を開け、目の前に広がっていた光景をみて私は絶句する

「なん…で……?」

そこに倒れていたのは、ほんの数秒前まで私を殺そうとしていた巫先輩の姿
しかし、その目に生気というものは無かった
それもそのはず。巫先輩の額には一円玉くらいの赤い穴が空いていた
そしてそこから血が溢れ出ている
誰が見ても、死んでいるということが分かる

ザッという音が真後ろからして私はハッとして後ろに振り返る

「あは……」

笑うことしか――出来なかった

「あは…あはは……そういうことだったんですか……失敗したなぁ……あなたから先に殺しておけば良かった……!」

ギリッと、私を見下すように笑う、私たちのよく知っている人物を睨み付ける

「宵桜…満月……!!」

スナイパーライフルを構えて佇む宵桜満月
生徒会長で色んな人に信頼されている宵桜満月はそこにはいなかった

「やっほー、日向ちゃん」

それはまるで朝の挨拶でもするかのようだった。そして、宵桜満月はその笑顔のまま、ガチャ――と、スナイパーライフルを私に向け――

「さようなら」

何の躊躇いもなく、引き金を引いた


Chapter 29 End