公園で散歩していたら、雪柳がみごとに咲き誇っていた。かすかに花の香りがする。さわやかな、癖のない香り。まるで、香料を含まない石鹸のような、しかしそれよりもさらに淡い、清々しい香りだ。生まれて初めて、雪柳の香りを感じた。生まれて初めて、その香りの清々しさに触れた。
 ローマ法王が逝去して、世界中で追悼のミサが開かれているというようなことを、NHKの7時のニュース番組で報道していた。パソコンの前に座って、何気なく音声だけを聞いていたら、妙な言葉が耳に入った。

 「コンクラーベ」・・・根競べ?最初にその言葉を聞いてから画面を見たので、ローマ法王関連のニュースとは思わなかった。何か新しいゲームか、新開発の健康器具か、そんな感じのものを連想した。

 どうやら、次期法王を決める選挙のことを、あっちの言葉でそう言うらしい。「コンクラーベ」・・・こんなことを言ってはいけないのかもしれないが、「コンクラーベ」とは面白い。まるっきり日本語の「根競べ」とかぶってる。日本人ならまずそっちを連想するはずだ。

 なんてことを考えながら、また目線をパソコンに戻し、音だけ聞きながら作業していた。すると今度はこんな言葉が・・・「それでも決まらない場合は、有権者同士が話し合ったり、祈ったり・・・」祈ったり!?話し合うのはわかるが、祈るってどういうことだ?次期法王が祈りで決まるのか?ていうか、祈りでどうやって決める?

 気になって再びテレビ画面を見ると、「コンクラーベ」の様子が、裁判所の様子をテレビで再現するときのような、あんな感じの絵で説明されていた。もうその時点で、ニュース番組ではなく「トリビアの泉」にしか見えなかった。

 有権者同士が話し合ったり・・・い、祈ったり・・・そのことと、テレビ画面の「トリビア」っぽさに、おかしくて笑いをこらえることができなかった。「コンクラーベ」・・・しばらく流行りそうだな。
 木蓮の木にヒヨドリがとまって、しきりに花びらをついばんでいた。紫のような、濃いピンク色のような、木蓮の花の中から、柔らかく、まだ小さな白い花びらをくちばしで毟っては飲み込んでいた。ヒヨドリが、というよりは、鳥が花びらを食べるというのは知らなかった。蜜があるんだろうか。

 ときどき枝を移っては、さかんに花びらを食べるヒヨドリは、花の美しさに無頓着であるように見えた。その姿には、無心に生きることの貪欲と尊厳が映し出されているようだった。
 実家で飼っていた猫が死んだ。体調を崩してから2週間を待たずに逝ってしまった。獣医に診てもらい、注射を打ってもらって、ほんの少し体調が戻ったものの、それからすぐだった。人間でも動物でも、死ぬときは何をやっても死ぬ。寿命というやつだろうか。

 下手に注射など打たずに、自然の治癒力に任せたほうが良かったのか、などといろいろ考える。考えたところで、今さらどうにもならない。彼女はもういない。およそ12年と半年の間、あの小さくて柔らかい生き物は、僕に優しさと安らぎを与えてくれた。

 亡骸に触れると、想像以上に固く、冷たくなっていた。額の皮膚にも、ぴんと立ったままの耳にも、弾力がない。体に触れると、最初は温度を感じないが、手のひらの温度が、唯一柔らかさを残している毛に伝わって、すぐに温かくなる。ふと、まだ生きているかのような錯覚を覚えた。

 こんなふうに、悲しみが胸の奥からとめどなく沸きあがってきたのは、いつ以来だろう?彼女は僕の知らない世界へ行ったのか、それとも他の何かへと存在の形を変えたのか。どっちにしろ、お別れを言わなければならない。さよなら。ありがとう。
 現実の生活では行かないはずのパチンコ屋にいた。パチンコ屋の向かいにはスーパーがあり、そこから出てきたらしい主婦っぽい女性が、パチンコ屋のガラスの扉に張り付いて助けを求めていた。口の辺りから血が出ていて、喉まで真っ赤に染まっていた。

 主婦が張り付いていたのとは違う扉から外に出ると、そこはちょっとした広間のようになっていて、スーパーからたくさんの人が逃げ出してきていた。何があったのか、何から逃げようとしているのかはわからなかった。とにかく何か危険なものがスーパーの中にいるらしかった。

 周りの人と一緒に逃げようとしたとき、スーパーから子供が飛び出してきて、人間とは思えない跳躍力であちこちに跳びながら、無差別に逃げ惑う人々を襲っていた。襲われた人は叫び声をあげ、血を流して倒れた。

 ほとんどパニック状態になって逃げかけたとき、目の前にその子供が跳んできた。手には真っ白に光る刃物を持っていた。刺身包丁より少し長く、諸刃で、光を反射しているのではなく、刃物自体が光っているようだった。

 子供(たぶん10歳くらい)は、僕をにらみつけて切りかかるような姿勢を見せた。僕もそこで覚悟を決めて子供と対決するつもりで身構えた。体の芯に、チリチリと焼けるような感覚があった。すでに恐怖心はなく、気分的にはすっかり戦闘モードだった。

 少しの間にらみ合いが続いたが、子供は何ともいえない複雑な表情で顔をしかめた後、人間離れした跳躍力でどこかへ逃げていった。命拾いして、ほっとする間もなく目が覚めた。