翌日、ロアンナが学校から帰ると、母のマリーはキッチンでワインを飲んでいた。前にも同じことがあったとき、ロアンナは母が恐ろしい、しかも悲しい表情で自分を見つめたのを覚えている。だから今日は何も話しかけずに、そっと自分の部屋に入った。

 ロアンナには詳しいことはわからない。しかし父と母の間に問題が起きていることは痛いほどわかっていた。彼女には、母と二人で家にいることが息苦しく感じられた。ふとベッドの脇を見ると、昨日お菓子を詰めたままのカバンが椅子の上に置いてあった。優しい祖母の顔が目に浮かんだ。

 お気に入りの真っ赤なフードつきコートを羽織ると、お菓子の詰まったカバンを持って、ロアンナは窓からそっと家を出た。

 家から10分ほど歩くと、森の入り口にたどり着いた。そこは古い森で、大きな木がひしめき合うように生えていて、冬で葉の落ちている木が多いというのに、道は薄暗かった。ロアンナは一瞬だけ躊躇したが、祖母の優しさに触れたい気持ちが森への一歩を踏み込ませた。

 薄暗い森の道は、左右から枯れた枝が張り出し、ロアンナを捕まえようと手を伸ばしているかに見えた。ふと右のほうを見ると、木の間を人が通ったように見えた。ロアンナは一瞬驚いたが、オオカミでなく人影だったことが不安を和らげた。

 「誰か・・・誰かいるの?」

 森の薄闇に向かって声をかけたが返事はない。再び不安を覚えながらも、ロアンナが先を急ごうとしたその時。

 「お嬢さん、こんな森の奥で何をしてるんだい?」

 その男はいきなりロアンナの眼前に立ちふさがっていた。毛皮のジャケットを着て、背中に銃を背負っている。森で生活するハンターのようだった。男はずんぐりした体型で背は低く、ロアンナより頭一つ分高いくらいだった。その高さから、男はロアンナの姿をジロジロと品定めするように見ていた。

 「あなたは・・・?」

 「おれはテリーだ。この森で暮らしてる」

 「猟師さんね」

 「そうだよ。それで、あんたはどうしてこんなところを一人で歩いてるんだい?この森にはオオカミがいるんだぜ」

 「おばあちゃんのところへ行くの」

 「おばあちゃん?・・・森のはずれの一軒家にいるミゼッタかい?」

 「そうよ、猟師さん、知ってるの?」

 「ああ、まぁな。」

 「そう、じゃぁ一緒におばあちゃんのところまで来てくれる?」

 「はっはは、おれは今仕事中なんだぜ?でも、まぁ、あのばあさんのところまでならついて行ってもいいがね」

 「本当!?ありがとう」

 二人はそこからミゼッタの家まで一緒に行くことになった。テリーと名乗る猟師は一言も喋らず、黙々と歩きながら周囲に目を光らせていた。ロアンナにとって、テリーの印象はあまりよくないものだったが、オオカミが出るという森で猟師と一緒にいることは心強かった。