悪の芽 第四話「闇からの招待状」前編
誠は、物思いに反芻(はんすう)していた。昨日のお嬢様もよかった。やはり俺が黒幕だとわかってからの彼女の拒絶反応にはたまらないものがある。それにしても、ついにマスターが俺に会ってくれることになった。普通の大学生、しかも俺より年下だという。 それが本当なら末恐ろしい、いや頼もしいことこの上ない。彼についていけば、本当に退屈しなくてすみそうだ。世の中のたいていの学生は、バカが多い。俺のこともただの気弱な学生と思い違いしている。いずれ、俺のすごさがマスターの手によってわかることだろう。 さてそろそろ待ち合わせの時間のはずだ。 誠は、ネットカフェのオープン席でそわそわして秀人を待っていた。すると、店員「お客様、隣に相席したいという方がいらっしゃいますが、いかがしますか?」誠は少し考えたあと、「それで結構です。」そう答えていた。 入ってきた若者は、一見普通の、いや普通よりも真面目そうな、そんな学生のように見えた。 (ちょっと早まったか?) 誠は、マスターが相席するものと疑わなかったため、若者を見て、自分の気分の高揚により読み違いしたものと失敗を覚悟したが、突如、その学生が礼をしたかと思うと、勢いよく、キーボードを打ち始めた。ブラインドタッチもさることながら、その力強い、眼光に思わず、誠は見とれていた。{はじめまして。ブレイン、いや兵藤 誠さん。私の同志になってもらえて光栄です。 一緒に世の中の人々の心の悪を開放していきましょう。あなたもご承知の通り、あなたの悪の心が開くきっかけとなる沢木さんをころばし、手紙であなたの心をあおったのは、全てあなたに行動を起こしてもらいたかったからです。人の心に働きかける強いきっかけを与え、人心を掌握する。 動いてもらいたい方向に、素晴らしい悪の道に人々を導くことが私の手始めの目的です。やがて、人は悪こそが正義と。賢いものが得をすると理解するでしょう。悪を否定するのではなく、心を開放し、良い方向に力を使ってこそ、本当の意味で人類は、進化していくのです。}(この方は、本気だ。本気で人々を開放して、理想の世界を作ろうと考えている。 あまりに衝撃的で力強い文面と不思議な目の輝きに、誠は吸い込まれそうになりながら聞き入り、隣の若者が、マスターであることを確信する。)誠「お会いできて、光栄です。今後の予定をお聞かせ願えますか?」秀人「・・・・・。」秀人は答える代りに、パソコンの画面を指さし、再びキーボードを打ち始めた。{ブレインとまず今後あなたをよばせてもらいます。今の3年生の中でもトップクラスの実力をもっているあなたの頭脳は、私達のこれからの行動に必要不可欠です。ブレイン。あなたは、今の社会をどう考えていますか? 犯罪が増えるとともに複雑なサイバーテロやネット犯罪がはびこっています。しかし、その犯罪を一手にコントロールできるとしたらどう思いますか?私は、今めぼしいいくつかの犯罪サイトのオーナーを調査し、私の元に統一しようと考えています!! 秀人は、複数の犯罪結社の中から特に組織の規模の大きい<イブルクライム> と名乗る団体との接触を試みようと考えていた。 マスター(=秀人){ブレイン、君はこの団体についてどう思いますか?イブルクライムについての資料を見せながら秀人は答える。私の理想と同じ悪の心の解放をうたっているらしいのです。 正直、ネット上の情報もわずかで、得体もしれません。}ブレイン(=誠)「そうですね。名前だけは、私も聞いたことがあります。マスターと出会ってから 悪の心について関心をもちましたから。また、マスターの不安もごもっとだと思います が、より多くの同胞を手に入れ、世の中の悪をコントロールするためには、彼らの力が 必要なこともまた事実であると考えます。本当に協力できる組織か見極めるためにも まずは、私がさらに調査・情報収集を行い、探りを入れてみましょう。 マスターに触れて、より一刻も早くその理想・理念の先を見てみたくなりました。 悪の力を注げることに血がたぎる思いでございます。 地の底まで私をお使いください。喜んで身を捧げましょう。」マスター{そういってもらえると助かります。あなたのような人が増えれば、きっと世界も変えられる、いや、変えて見せます。だが、くれぐれも用心してください。こちらはまだ動き始めですが、相手は、規模も人数も圧倒的に上でどんな団体かもよくわかっていないのですから。}ブレイン「ご安心を。こう見えても頭脳だけなら負ける気はしません。腕力はそうでもないですけどねw マスターこれを・・・。」ブレインは、今までしゃべっていた会話を中断し、マスターの隣のパソコンで急に文字を打ち始めた。ブレイン 「すでに僕たちの会話を盗聴し、パソコン上の会話も盗み見ていることは、 わかっていますよ?邪悪な犯罪者さん? 一度、お会いになりませんか?」 マスター {!!!!!ブレイン}すると、急にブレインの画面にメールの着信があった。●●●「まだ、お会いしたこともなく、噂でしか知らないという割にやりますね。 いいでしょう。通常、あなたがたのような少人数の組織は、無視するか 力ずくで統合するのですが、あなたがたに興味がわきました。 一度、お会いしましょう!悪の心の解放に乾杯!! 場所は、追って連絡いたします。お逃げになっても無駄ですよ? フフフ・・・・・」 ブツン。 マスター「いきますよ。ブレイン。」そのまま、盗聴されているのが気に障るかのように秀人は、誠を促し、ネットカフェをでようとした。出る間際、受付の中の店員の一人が、ニヤリと笑ったように見えたのはただの気のせいであっただろうか。マスター「それで、いつから気付いていたのです?」秀人は責めるでもなく、怒るでもなく、いつもの落ち着いた口調で誠に尋ねる。ブレイン「店に入った瞬間ですかね。常に視線のようなものを感じたんで。 僕って霊感とか人の視線に敏感なんです。見ただけで、どんなやつか たいていわかりますよ。」 こともなげに、すごいことをさらりと言う。マスター「敵じゃなくてよかったですよ。私の勘もあながち悪くはないようです。 それでは、作戦会議に入りましょうか?」 近くのオープン席のあるコーヒーショップを指さし、二人は歩き始めた。 敢えて、オープン席の方が怪しまれないと踏んだのだろう。ブレイン「光栄です。マスター。」 果たして、後半、闇の組織との会合はどうなるのでしょうか。急展開をみせる二人の状況に目をそらさないように!悪にも種類があるのです!後編もお見逃しなく! 悪鬼 秀才