?「お困りのようですね。」
その時、誠の前に一人の若者が現れた。
若者 「これ・・・・。」
誠 「え??これは?」
若者はその問いには答えず、すたすたと足早にその場を去ってしまった。
(いったい、なんだったんだ。人の気持ちを見透かしたかのように、
声をかけてきたくせに。)
誠は怒りを抑えながら、その受け取ったものを見返してみた。
「手紙だよな?」 そう、それは普通の便箋に入ったごくありふれた手紙のようだった。
「沢木こずえは俺のモノだ? なんだこれは・・・・」
内容を見返してみると、ますます驚かされるものだった。こずえの1か月にわたる
行動などがぎっしり書きつづられていたのだ。 しまいには、一緒にツーショットの写真まで貼ってあった。
「おとなしい坊ちゃんの兵藤君なんて相手にされないよ。あきらめなって。」
いわゆるあの若者なりの誠を意識した宣戦布告のようにみえた。
「ふざけやがって・・・・。」 普段は冷静で小心者の誠だったが、こずえがからんでいることもあり、沸点が低くなっていた。
(ああいう輩からこずえお嬢様を守るためにも、おれだけのものにしなければならない。)
その頃・・・・。
若者「なんか拍子ぬけだなぁ。お困りですか?っていって手紙渡すだけで1万円もくれる
なんて。おまけに沢木お嬢さん似の子とツーショット写真とれてラッキー。
さって、小遣いもできたし、ナンパにでも繰り出そうかなっと。」
着々と、悪の芽計画が育とうとしていた。
誠は、まずどうやってこずえを自分のモノにできるか考えていた。
(普段、僕を下僕としかみてないあの人をより効果的に苦しめて、僕のモノにしてやる。
それなら・・・・・。アハハ。少しずつおとしてあげますからね。こずえお嬢様・・・)
こずえは、ある日から誰かの視線を感じるようになった。
「一体、何なのよ・・・・。あたしのお金が欲しいんだったら、はっきりそう言いなさい。」
こずえのむなしい声が辺りに響く。
ここ最近の視線が本当だとわかったのには理由があった。
閉めたはずの窓が少しあいていたり、レポートの閉じた順番が違っていたり、
さっき沸かしたはずの風呂の栓がぬかれているなんてことがあった。
これはただごとではない。ストーカーと思われるこの男の行動はますますエスカレートしていくのだった。 しかし、今まで完全なセキュリティーもありこんな事は一度もなかった。 お嬢様として、他の者を蹴落としこそすれ、相談できる相手などいるわけもなく、
日に日に精神的に弱っていくのだった。
そんなある日、こずえは、誠に言った。
こずえ「あんた、あたしの下僕なんだからあたしのファンで怪しいやつとか知ってるんじゃないの?さっさと捜してちょうだい。」
誠「え?お嬢様、誰か怪しい人に狙われているのですか?それはいけない。僕が見つけて、
こらしめてやりますよ。頼りにしてもらい、光栄です。」
こずえ「頼りになんてしてないわよ。あんたなんか保険よ、保険。まぁ保険にもならないですわね。しっかり調べるのよ。」
こずえは、軽い調子で言ったわりに、目が真剣だった。
(これは、効いているな・・・フフ。さぁあと一押し、しますかね。)
次の日から誠が姿を見せなくなった。
昨日の晩が発信時間のメールがこずえの大学のPCアドレス宛てに届いていた。
「お嬢様、犯人は、あなたのファンの中にいます。」
よくみると、もう一通、知らないアドレスからメールが届いている。
{お嬢様、もうじき、君は僕のモノになるんだね。僕の言うことを聞かないとあなたの
下僕がどうなるかしらないよ・・・お嬢様自身も傷つけたくないんだ。
これから僕の言う通りにしてくれるね?}
瞬間、こずえの顔は血の気がなくなり、貧血になったかのようにくらくらした。
その日から、こずえの地獄が始まったが、これがまだ序章だとは
この時のこずえには知る由もなかった。
こずえが何をしていても、定期的に携帯にメールが鳴る。
{お嬢様、隣にいるひげづらの男の洋服の匂いをかぐんだ。方法はどんな形でもいい。}
こずえ「ちょっとそこのあなた洋服が汚れているわ。貸しなさい。んぅ、ひどい匂いね。
あなたちゃんと洗濯をしていらっしゃるの?」
ひげづらの男は突如、何が起こったのかわからなく呆然としている。
{そうだ、その調子だ。やればできるじゃないか、お嬢様いいこだ。
次は、前の男の・・・・・・}
(こんなのおかしい。こんな屈辱あってはならない。見ず知らずの男に命令され、
辱められるなんて・・・・でも・・・なんだか・・・)
こずえは、あまりの悲劇にショックを受けながらも徐々に受け入れ、恍惚とさえしていくようであった。
こずえが、命令され続けて、ついに1か月が経とうとしていた。
(つまらないな。言うことを何でも素直に聞きすぎる・・・最初の頃の抵抗や高慢な態度が嘘のようだ。もうこんなおもちゃいらないよ。しまいにしよう。
最後にとっておきのショックを与えてあげるからね。フフフ。)
そしてその日。メールで不思議なメールがこずえに届いた。
{今日ついにお嬢様のもとにいくからね。鍵を開けて待っていてね。
そうそう、絶対、誰か他の人を呼んだらどうなるかわかってるね?
人質の下僕くんを無傷で返せることを祈ってるよ・・・フフフ}
ふとこずえは我に返った。自分はこの1カ月何をやってきた?
見ず知らずの男にいいようにされ、恥ずかしい写真までとられたりもした。
絶対、あってはならない自分への命令。
こずえ「下僕なんて知ったことではありませんわ。一刻も早く警察を呼ばなくては。」
その日、捜査員が、5名近くで待機。部屋にも3名配備の大包囲網になった。
そして予定の時間。
がさごそ・・・・・。こずえの窓から物音がする。
外の待機班の連絡では、怪しい男が一人家に忍び込んだらしい。
窓がそっと空く。 こずえは寝たふりをしていた。
男が部屋に入った瞬間・・・・・。
警察官A「そこまでだ。警察だ。お前は完全に包囲されている。」
男「ひぃ・・・・。なっなんで・・・・。絶対お嬢様は一人なはずじゃなかったのかよ。」
男は、あわてて窓から飛び降りた。逃げようとしたが、外の待機班に
すぐさま、とりおさえられた。
警察官B「お嬢様、ご協力感謝いたします。それにしても物騒ですな。
犯人も自分から予告をするなんてバカなやつでよかったですな。ハハ」
警察が、帰った後、部屋でこずえは、ぼーっとしていた。
(助かったんですわよね?・・・・あの方は、私の熱烈なファンでしたわ。
下僕の報告した通りだったですわね。)
こずえ「・・・・?」
? 「ひどいよ。こずえちゃん。誰かに言ったら僕がどうなるかわからないって
あれだけいったじゃないか!」
ぎくり。。。。 こずえは、誰もいなくなったはずの部屋の入り口をみた。
そこには、あの誠が不敵な笑みで立っていた。
こずえ「あなたどうして・・・・。・・・・・まっまさか。」
誠「フッフッフ。やっぱりお嬢様は怖がった顔が最高だよ!・・・・」
・・・・・・・・
その頃、警察では、こずえのファンのむなしい叫びだけが響いていた。
ファンA「だから俺は、怪しいメール通りにしただけだってば。
今までも、お嬢様のことなら何でも当たってたから。信用しただけで。
好きにしていいっていうからさ。」
警察官C「くだらない言い訳をするのもそこまでにしておけ。
ネタはあがっているんだよ。ファンに犯人がいるって聞いてたから
お前の部屋を捜索したら今までのお嬢様への暴言のメールや写真が
山ほどでてきたぞ。この悪党が、留置場に10年はいるんだな。」
こうして、お嬢様は誠ただ一人のものになりました。
誠は自分が捕まらないようしっかりパソコンで偽装をし、綿密に計画をたてたのです。
頭の良い彼が誰にもばれずにメールを転送し、ファンのメールとしてお嬢様に命令を
することは訳のないことでした。
誠「フ。やってみたら簡単だったな。こんな簡単にあれだけ想っていたお嬢様が手に入る
なんて。これもあの変な手紙が危機感をあおってくれたおかげかな?
ん?そういえば、変だな。あれ以来、あいつから手紙はこないし、
周りでみたこともないぞ。いったい誰が?」
次の日、誠宛てにこんな手紙が届いた。
「おめでとう。やはり君は僕が見込んだ頭の良い人だ。ダークミレニアムの同志として
僕に力を貸してくれませんか?人をあやつり、悪に目覚めさせ、人々を支配するのです。
どうです?おもしろいでしょう。返事はこのメール宛てにください。
あっそうそう、君の家のパソコン、あれはいいですねえ。高スペックでウィルス対策も万全じゃないですか?では良い返事を期待しています。
それにお嬢様のこけた時って可愛いですよね。フフフ。」
誠「まっまさか・・・・・僕は初めから彼に踊らされていたというのか?
フフッ。。。。ハハハハハ。おもしろい。人を操るだって?彼についていけば、
きっと面白いものが見られる。こっちからお願いする。ダークマター様。」
こうして、悪の芽の目覚めた秀人の組織するダークミレニアムの一員が一人加わった。
彼らは果たして人心を操り、何をしようというのか。何をなそうとするのか。
人の心の悪は果てしない。永劫の闇へと続いている。
次回、秀人と頭の良い誠の加わった闇が新たな犠牲者を捜す。
あなたも目をつけられないように注意してください!
悪鬼 秀才