秀人がまずW大学に入学して始めたことは、

周りの観察だった。

入学早々浮足立ち、サークルに入りはめをはずすもの、部活に没頭し懸命なもの、

将来の就職準備に資格をとるもの、バイトにあけくれるものなど

さまざまであった。

<どいつもこいつもくだらなすぎる。。。。せめてもの救いはこのありあまる時間か。>

 すでに世の中に失望し、悪の道にふみだした秀人には大学は意味のない場所であった。

 「さて、あそこにちょうどおもしろそうなペットがいるな・・・・・」

暇をもてあましていた秀人は、観察しながら最初の生け贄(にえ)を捜していたのだった。

その先には、小柄な青年が一人たたずんでいた。

 

  兵藤 誠は、気弱な大学3年生であった。 W大学法学部に現役で入った彼は、

もちろん頭はずばぬけていいのだが、元来、精神的に弱く、勉強以外はてんでできない

がり勉タイプであった。

 彼は大学に入学してからも資格や授業にあけくれ孤独な日々を続けていた。

しかし、大学2年になったある日、突然それはやってきた。

 ?「あなた、結構、頭がいいんですってね?私の下僕に入れて差し上げてもいいのよ」

誠が一人でパソコンで作業をしていると、後ろから声がした。

 誠が2年当時に、新入生で噂の沢木 こずえであった。

彼女は、言葉遣いからもわかるように某有名企業の社長を父親に持つ

正真正銘のお嬢様であった。そのせいかありがちではあるが周りは全て自分を

信奉する信者であるかのように傲慢に生きてきていて、有名であったのだ。

 しかし、誠が彼女を見て、最初に感じたのは今までにない感情であった。

(きれいな人だな。この人が、わがままなお嬢様か、もったいないな。

どうにかして彼女を普通のかわいい女の子にしてあげられないかな。)

 そんなことを思ったのだった。 

最初はそんなことを思っていた誠だが、気弱な性格のせいもあり、彼女のいいなり通り、ずるずると良いように利用されるとりまきの一人としてあしらわれているのだった。

こずえ

「早く、ここ教えなさい、いえやっておきなさい。あたしは買い物があるからよろしくね。」 

「こずえ様ご自身で勉強しないとただでさえ、親のすねで入学したと言われてるんですから。」

こずえ

「もう一度いってごらんなさい。あたしの取り巻きに殺されるわよ。それに名前をよぶのはやめてちょうだい。あんたになんかよばれたら蟲ずがはしるのよ。」

「はい。すいません。沢木御嬢様。でしゃばりすぎました。完璧な解答を書いておきます。」

 いいように使われて、1年。順調に彼の中で、何か黒いものが育っていた。

言い返すことも、離れることもできない自分。さらに自分に劣等感を覚え、何か張りつめていた糸が限界を迎えようとしていた。

 そんな誠の日常を秀人は、入学して早々見てきて彼の中に眠る大きな魔力に共感を覚え始めていたのである。 

 (さて、彼には、自分の手で目覚めてもらいますか・・・・)

 不気味に秀人はほくそえんだ。

 

 それは、いつもの光景であった。 誠がこずえに怒鳴られ、馬鹿にされているといった。

こずえは、後ろを振り返り、すたすたと足早に誠から離れる。

すると、突然、何かが足元に引っかかったかと思うと、こずえは、階段からころげおちた。

  こずえ「きゃーーーーーー。いたっ。・・・・・」

 ドクン。   ドクン。 ドクン。

普段、気弱な誠の中の野性が目覚めた。

(なんて、すてきなんだ。やっぱり彼女には、弱い部分が似合っている。)

痛めつけられ、弱い声をもらすこずえに誠は、震えと同時に快楽に似た感情を覚えていた。

彼女をもっと痛めつけ、自分の支配下におきたい。もっと苦しむ彼女がみたい。

どんどん誠の中であぶない思考がふくらんでいく。

しかし、初めて生まれるその感情を持て余すかのように誠の中では葛藤が生じていた。

いや、しかしそんなことはできない。そんなことしたら、俺は犯罪者になってしまう。

彼女をかわいくするのはそういう意味じゃなかったはずだと。

 

 ?「お困りのようですね。」

その時、誠の前に一人の若者が現れた。

 

 かくして、新たな感情の芽生えた誠。そしてそこに現れた若者。

この後、どういう結末をむかえるのか、皆さんもうおわかりですよね?

ではこの辺でいったん幕引きとさせていただきます。

後半をお楽しみに。  今日も良い悪が育ちますように!