今日お昼寝の時に見た夢です。

私は映画館で映画を見ているような感覚で、目の前に展開する物語を見ています。
そして登場人物の一人(50過ぎの男性)も私であるというちょっとややこしい設定です。
ちなみに登場人物は全員、現在の私とは関わりのない人たちです。

では夢のはじまりはじまり・・・。

私(50過ぎの男性)は、いわゆる「分別のある大人の男性」として生きています。
ちょっとメタボが気になりつつある身体をスーツに押し込み、仕事をしています。
そんな私には70過ぎの母親がいます。
父親はとうの昔に亡くなり、母親と二人暮らし。
それなりに楽しい日々を過ごしていました。

ある日晴天の霹靂のごとく同居人がやってきました。
「あつし君」という60過ぎのおじさんです。
母とどこでそう知り合ったのか、母はあつし君をいたく気に入り
一緒に住むことになったのです。

私にとってあつし君は、60過ぎではあるけれども「あつし君」と呼ぶのが
相応しいと思える人です。
(以前、「裸の大将」で芦屋雁之助さんが演じた山下清をイメージしていただくと
分かりやすいかもしれません。塚地さん演じる山下清だと、ちょっと若すぎるかも・・・。)

子供のように天真爛漫で、ちょっとでも気になることがあると、全てをそっちのけにして
のめりこんでしまう・・・。
一緒に暮らし始めて、私にとっては必要最低限と思われるそれなりのルールとか分別とかが
全く通じないのでいらいらし、怒鳴り、そのうち諦めて呆れるしかありませんでした。
正直なところ「一体こんなヤツのどこが気に入って家に置いてやっているんだ。」
「母もとうとうボケてきたのでは・・・?」と思っていました。
そして何か口実を見つけてあつし君を追い出せないものかと考えていた矢先のことでした。

食事に行くことになり、母は店に一足先に行き、私があつし君を連れて後から合流することになりました。
案の定、あつし君は、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ・・・と私の「母を待たせてはいけない。」
という気持ちなどおかまいなしに好き勝手に歩きます。

なんとか無理やり店まで引っ張っていき、母の待つテーブルまであつし君を連れて行こうとした時です。
あつし君は「嫌だ。行きたくない。」と、まるで子供のように駄々をこね始めました。
目と鼻の先まで来ているというのに。
テーブルに着いて私達を待っている母にも聞こえるような大声で。

なだめたりすかしたりしても、一向に前へ進もうとしません。
とうとう座りこんで「嫌だ。行きたくない。」と、今度は呪文のように小さな声で繰り返すばかり。

当然のことながら店内の興味本位と感じられる視線は私達二人に向けられています。
母はもちろん店の従業員や他のお客の手前もあって、私は恥ずかしいやら情けないやら
あつし君に対して殺意めいた感情さえ抱き始めました。
そしてあつし君の胸ぐらを掴んで、無理やり立たせようとしたその時。

「あっくん。」

あつし君を呼ぶ母の声がしました。

たった一言。
自分にむけられたその一言を聞いたあつし君はスクッと立ち上がり、まるで何事もなかったかのように満面の笑みを浮かべて母の待つテーブルへと小走りでかけて行きました。

後に一人残された私は何故だか涙が溢れて止まりませんでした。
そのうちしゃがみこみ、顔を覆って子供のように声を上げてな泣きじゃくりました。

*その映像と共に私(男性)のナレーションが入ります。

私はなんで泣いているのでしょう。
自分でも分かりません。

ただ一つ言えるのは母の声が優しかったから。

母をあつし君に盗られたからとか、子供の頃の母との甘酸っぱい記憶が蘇ったからとか
そんなことじゃぁないんです。

ただあつし君を呼ぶ母の声が優しかったから。

優しかったから。

ただ、それだけなんです。


ここで目が覚めました。
私もまた涙が出ていました。
そして目が覚めた後も、ひとしきり泣きました。


私はなんで泣いているのでしょう。
自分でもわかりません。

ただあつし君を呼ぶお母さんの声が優しかったから。

ただそれだけのような気がしています。