エイジレスの374回 「腸内細菌叢の異常」の改善
ヒトの腸の中には数兆もの細菌が分布しています。
この腸内の細菌の集まりは腸内細菌叢と呼ばれ,代謝や免疫に重要な役割を担っています。
腸は,その表面から抗菌ペプチドという物質を分泌することによって腸管内での病原菌の増殖を抑え,腸内細菌叢を健康に保っています。
特に,小腸を病原菌から守る役割を持つパネト細胞が分泌する -ディフェンシンという抗菌ペプチドは,病原菌に対して高い殺菌作用がある一方,ヒトの体に有益な働きをする共生菌はほとんど殺菌しません。
近年,腸内細菌叢の異常,つまり病原菌の異常増殖や有益な共生菌の喪失が,炎症性疾患・アレルギー・がん・肥満など,様々な病気に関連することが報告されています。
特に骨髄移植などの造血幹細胞移植後では,抗菌ペプチドが減り腸内細菌叢に強い異常が起こり,また腸内細菌叢に強い異常がある場合は移植の成功率が低いことが知られています。
腸内細菌叢の異常を予防・治療することは,様々な疾患の予防や治療につながると考えられ,盛んに研究されています。
今回は、そんな研究の成果の一つで、抗菌ペプチドを使った腸内フローラの改善についてのお話です。
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腸内細菌叢の異常を改善するためのこれまでの治療戦略は,プロバイオティクスや糞便移植といった“有益な菌を投与することによる治療”であり,腸管の環境が変化して抗菌ペプチドがなくな
ってしまうような病気では,投与した有益な菌が増殖して効果を出すことは難しい可能性があります。
また、病原菌を殺菌するための抗生物質は,病原菌と共生菌を区別せずに殺菌してしまうため,腸内細菌叢の異常が悪化してしまう可能性もあります。
今回の研究では, -ディフェンシンが病原菌と共生菌を区別して病原菌のみを殺菌できる特徴に着目して, -ディフェンシンの産生を促進する,もしくは -ディフェンシンを直接投与することによる,
全く新しい治療法を開発しました。
R-Spondin1 と呼ばれる腸の粘膜の細胞を増殖させるタンパク質が,腸内で高い殺菌作用をもつ -ディフェンシン(抗菌ペプチド)を分泌するパネト細胞を増殖させることを発見しました。
R-Spondin1の投与によって,骨髄移植後の抗菌ペプチド量の低下を改善し,腸内細菌叢の異常を予防することができました。
腸内細菌叢の異常の予防効果は,抗菌ペプチドである -ディフェンシンの経口投与によっても発揮されました。
R-Spondin1 や -ディフェンシン投与による腸内細菌叢の異常の治療は,腸内細菌叢の異常が関連する様々な疾患の新しい治療アプローチとして期待されます。
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R-Spondin1 や -ディフェンシンは、一般的な物質ではありませんが、プロバイオティクスのような腸内に良いとされる物質の投与とは違う発想のアプローチで、効果も高そうです。
身近にないので、すぐに参考にできるわけではありませんが、そのうち、健康食品に応用されることと思いますので、それまでは、ヨーグルトや納豆などの従来型の腸内フローラ対策で乗り切ってください。