エイジレスの359回 【生物工学】新しい腸管の作製

 

 

 生物工学(せいぶつこうがく)は、生物学の知見を元にし、実社会に有用な利用法をもたらす技術の総称です。

 

 ただし、定義は明確ではなく、バイオテクノロジーやバイオニクスの訳語として使われる場合が多く、この両方を含んだ学問の領域とも言えます。

 

 また、特に遺伝子操作をする場合には、遺伝子工学と呼ばれる場合もあります。

 

 今回のお話は、生物工学的手法を使って、腸を作ったというお話です。

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 短腸症候群は、腸の一部が失われているために栄養を吸収する能力が低下している状態の疾患で、腸の移植が現行の治療方法だが、移植用臓器の数が少ない上、移植片の機能不全と細胞性拒絶反応のために3年生着率が低い。

 

 これらの問題に取り組む方法としては、患者由来の細胞を用いて生物工学的に作製された腸を移植することが考えられる。

 

 こうした腸を構築するために人工的な骨格を用いる研究がこれまで行われてきたが、十分な成功が得られていない。

 

 この他にも脱細胞化した腸が有望な骨格とされ、研究が行われてきているが、これまでに作製された腸には、栄養吸収の回復に必要な血管が正常に機能する状態で備わっていない。

 今回、Harald Ottたちの研究グループは、血管新生と栄養素移動を実現できる骨格を作製した。

 

 Ottたちは、この骨格の血管新生を維持する方法を用いて、ラットの腸の一部から細胞を除去してから、栄養吸収能力を回復させるために2種類の腸細胞を再び添加した。

 

 最初にヒト幹細胞由来の上皮細胞を用いて複数の球状細胞(ミニ腸管球状体)が作製され、これらの球状細胞は、シリコンチューブを活用して骨格上で融合した。

 

 そして2週間の培養期間後に内皮細胞が添加された。栄養素の移動速度は、ラットから採取した元々の腸試料に近く、ラットへの移植から4週間後の時点で、生物工学的に作製された腸は生着と成熟を続けていた。

 今回の研究の主な成果は、血管系が発達した骨格を作製して、健康な腸内で見られるような腸管上皮細胞の再生を可能にし、移植片の生着を長期化できるようになったことだ。

 

 この方法はヒトでは検証されておらず、移植片が元々の腸ほどの成熟度に達していないが、このように移植片の大きさと栄養吸収能力の点で技術的進歩があったことで、生物工学的に作製された正常に機能する腸管移植片が有望視されている。

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 焼肉のホルモンなどで、腸の形を観る機会があるかと思いますが、見た目は単なる肉の管みたいに見える腸管も、栄養を吸収したり、腸内細菌を育てる環境整備など、命に直結する重要な機能があります。

 

 今回のお話は、血管まで作成できるということなので、これまでの人工腸管と比べると、遥かに進化した技術です。

 

 例によって、ラットさんでのお話で、ヒトへの応用はこれからですが、将来的には、機能が低下したり、ガン化した腸管を入れ替えるパーツ交換なんてのができるようになるかもしれません。