エイジレスの337回 生物のエネルギー代謝システムの進化

 

 

 化石燃料に替わるクリーンエネルギーとして、期待されている水素を利用した燃料電池の原型が考案されたのは19世紀半ばです。

 

 最近では、水素を使った燃料電池自動車も発売されました。

 (MIRAI(ミライ):トヨタ自動車)

 

 

 が、太古より多くの微生物は水素から生育に必要なエネルギーを取り出したり、これとは逆に、余剰なエネルギーを水素として放出したりするシステムを獲得して利用してきました。

 

 もちろん、ヒトも生命活動のために、燃料電池と同じ原理の仕組み(エネルギー代謝)を利用しています。

 

 近年、リターンエイジングの切り札として注目されているNMNという物質も、エネルギー代謝系で働いている物質です。

 

 今回のお話は、NMNと似た物質で、NMNとともにに仕事をしている「NAD+」を生み出す酵素についてのお話です。

-------------------------------------------------

 研究グループは、水素酸化細菌由来のNAD+還元[NiFe]ヒドロゲナーゼの結晶化に成功し、世界初となるこのタンパク質の立体構造解析によって複合体Iとの詳細な構造の比較が可能となりました。

 

 ヒドロゲナーゼの水素酸化還元ユニットと、これに相当する複合体Iのユニットは共通の祖先を持つが、大気に酸素が出現してからはそれぞれ独立に進化を続け、NAD酸化還元ユニットを獲得したことが示唆されました。

 

 一方、本酵素の酸化型と還元型の構造の比較によって、酸化型のNi-Fe活性部位*10はこれまでに例のない配位構造をとり、酵素が機能を失う原因となる酸素が接近できない構造をとっていることが分かりました。

 

 また、還元型では余剰な還元当量により活性酸素種が発生しないようNAD+還元部位が変形した構造をとっていました。

 

 

 このことにより、本酵素が酸素による失活を防ぐ仕組み(酸素耐性機構)の一端を解明することができました。

 

 さらに、両活性部位の構造変化は周囲の鉄硫黄クラスターの電荷の変化とうまく連動しており、鉄硫黄クラスターが単に電子の通り道ではなく、酸化還元状態を感知して構造変化を引き起こすスイッチ(レドックススイッチ)としての役割を持つことを見出しました

 

 

 本研究が明らかにした、「ヒドロゲナーゼのNi-Fe活性部位が酸素による攻撃から逃れる仕組み」はこれまでに例がないもので、ヒドロゲナーゼおよびこれに類似する触媒の酸素耐性の一般則の構築鍵など、この問題を克服するための鍵になることが期待されます。

 

 また、複合体Iが生成する活性酸素種と老化やガンとの関係が指摘される一方で、活性酸素生成を防ぐ機構については理解が進んでいませんでした。

 

 が、今回我々が提唱したNAD+還元[NiFe]ヒドロゲナーゼにおける活性酸素種の生成抑制の分子機構が大きなブレークスルーとなることが期待されます。

-------------------------------------------------

 

 NAD+還元[NiFe]ヒドロゲナーゼという酵素が、活性酸素の生成を抑制している仕組み(分子機構)がわかったとのことです。

 

 ご存知のように、活性酸素は、体内に入ってきた細菌やウイルスをやっつけたり、ガン細胞をやっつけたりする免疫システムの主役でもある反面、老化やがんの原因とも指摘されています。

 

 なので、活性酸素が必要な時は、きちんと働いて、過剰な活性酸素が生成されないような、絶妙なバランスが取れるのが理想なのですが、生物の代謝システムは、人知を超えた複雑な仕組みのため、活性酸素を制御するのが難しかったようです。

 

 

 で、神様の意志なのかもしれませんが、活性酸素のバランスは、長生きよりも、免疫重視側に偏っています。

 

 基本的に、生物は、子供を作って、次の世代に生命をつないでいくことが、最も重要な使命なので、生殖機能を失った生物が長生きする必要はありません。

 

 なので、活性酸素のバランスが免疫重視側に偏っているのは当然のことです。

 

 今回の研究は、人工的に活性酸素のバランスを長生き側にしようとする試みなので、人にとっては、有り難いお話ですが、神様の御意思とは、違うかもしれません。。。