エイジレスの197回 植物の病原菌感染を防ぐ画期的な薬剤

 

 

 世界の農作物生産量の 15%は病害によって失われており、これは 5 億人分の食料に相当します。

 

 世界の飢餓人口が8億人と言われていますので、5億人分の食料が、病害で失われているとは、実にもったいない話です。

 

 現在、74億人の人口は、2050年には、96億人になると言われており、国際食糧農業機関 (FAO)さんのお話では、今後70%もの食料増産が必要とのことです。

 

 しかし、過去50年間に、農地は、12%しか増えていないため、今後も急速に農地が増えることは、期待できないようです。

 

 但し、これまでは、農業の大規模化や効率化により、単位面積当たりの収量が大幅に増加したため、農業生産高は、2~3倍になったとのことです。

 

 農地が、増えないため、今後も画期的な農業生産技術により、単位面積当たりの生産高を増やす必要があるようですが、これまでのようには、いかないのも現状のようです。

 

 今回の論文は、現在、病原菌により失われている作物を減らすための技術ですので、現実的な対策の一つだと思います。

 

(難しいので、飛ばし読みしてOKです。)

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 植物病原菌は、葉表面に付着し、開口した気孔から植 物体内に侵入して感染します。

 

 これに対して植物は、免疫応答として 気孔を閉鎖し感染を防護します(気孔防御)。

 

 さらに気孔防御に対抗し、病原菌は感染因子コロナチンを分泌して気孔を再開口させ、体内に侵入します。

 

 コロナチンは植物の虫害に対する抵抗性をコントロールする COI1-JAZ 機構をハイジャックして作用するため、COI1-JAZ 機構を抑えて病原菌 感染に対する抵抗性を高めると、虫害に対する抵抗性が低下するというジレン マがありました。

 

 

<今回の成果>

 独自に開発した感染因子コロナチン立体異性体の示す生物活性の詳細な解析と、ア ルキンタグ生細胞ラマンイメージング技術(ATRI)によるコロナチンの シロイヌナズナ気孔孔辺細胞中での局在性解析によって、その気孔再開口作用 が小胞体の関与する新規機構(ER 機構)に基づくことを明らかにしました。 

 

 植物細胞の生細胞ラマンイメージングは、シロイヌナズナの葉緑体形成不全変 異体 arc-6 を用いることで初めて実現できた新技術です。

 

 

社会的意義と将来の展望 

 

 細菌感染と虫害に対する植物の抵抗性は、互いにコインの裏表の関係にあり、片 方を強化するともう片方が弱体化するというジレンマがありましたが、これを復す発見 と言えます。

 

 この新規機構に基づいて、植物の病原菌感染を防ぐ画期的な薬剤の 開発が期待されます。

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 要するに、これまでは、病原菌と虫の被害を同時に防ぐ技術がなかったのですが、今回作り出した「arc-6」は、病原菌と虫を一緒にやってけることができるということです。

 

 一般の方にとっては、「へ~」みたいな感じの技術ではありますが、この技術が広まれば、単純に、食料が15%も増産されますし、食料ロスが少なくなる分、価格も安くなるかもしれません。

 

 普段は、食べるだけで、生産者のことはあまり考えていませんが、この機会に、少しでも農業のことを知っておくと、何かの時の役に立つかもしれません。