169回 村八分にされるガン細胞!ガン予防薬の可能性
がんは、細胞社会の一つの細胞に変異(ミューテーション)が生じることから始まります。
その数、一日に3000個とも、5000個とも言われています。
しかし、身体全体の60兆個の細胞に比べると、微々たるものですし、毎日の新陳代謝で3000億個の細胞が死に、新たに3000億個が生まれる細胞社会においては、かなりのマイノリティー的存在です。
そんなガン細胞は、最近の研究によって,新たに生じた変異細胞の多くは周りの正常細胞との競合の結果,体外へ排除されることが明らかになってきました。
つまり、周りの正常細胞から村八分にされた結果、存在することさえ難しくなるというのが、初期のガン細胞です。
しかし,どのようにして変異細胞が排除されるか,その分子メカニズムについては、まだ多くが謎に包まれています。
で、今回、ご紹介する論文は、その辺のところを解明したというもので、うまくいくと、世界初のがん予防薬の開発にもつながるという素晴らしい成果です。
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(研究成果)
正常細胞に囲まれた変異細胞において,「ミトコンドリア※1機能の低下」と「解糖経路※2の亢進」という2つの代謝変化が生じていることを突き止めました。
さらに,この代謝変化が変異細胞の周囲に存在する正常細胞からの影響で生じたものであり,変異細胞の体外への排除に重要な役割を果たしていることが分かりました。
興味深いことに,これらの代謝変化は,「ワールブルグ効果※3」という,がん発生の中期から後期にかけてがん細胞に生じるものと同様であることも分かりました。
今回の研究によって,正常細胞が備えている「がん細胞を駆逐する能力」の一端が明らかになりました。
(今後への期待)
これらは,これまでブラックボックスであったがんの超初期段階で起こる現象を明らかにした研究成果であり,新たながん研究分野の開拓につながる可能性があります。
この研究成果をさらに発展させることによって,世界初の「がん予防薬」の開発へつながることが期待できます。
【用語解説】
1.ミトコンドリア:糖と酸素からエネルギー(ATP)を産生する細胞内小器官。細胞にとって、ATPが唯一のエネルギー源。
2.解糖経路:グルコース(糖)をエネルギーに変換する反応経路。(代謝の一部)
3.ワールブルグ効果:がん化の中期から後期に生じる解糖経路の亢進。 (無酸素状態でも、エネルギーを作り出す)
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代謝的にみると、正常細胞とガン細胞の最大の違いは、エネルギーの作り方です。
正常細胞が、細胞内のミトコンドリアという器官で、糖と酸素を使って、エネルギーを作り出しているのに比べて、
ガン細胞は、酸素を必要としません。(糖だけ)
なので、ガン細胞は窒息死することはありません。
しかし、このガン細胞の特徴が、(ガン細胞にとっては)災いして、周りの正常細胞から村八分にされた結果、追い出されることになっているようです。
しかし、ガン細胞は、一旦、増え始めると、酸素が要らないという特徴を使って、ドンドン増え始めます。
酸素なしで生きていくことをワールブルグ効果というのですが、今回、この現象が、最初の最初の段階で、既におきているということがわかったということです。
なので、ガン細胞の最初の最初の段階で、やっつけてしまえば、つまり、ワールブルク効果を起こさせなければ、がん予防になるということです。
実は、ワールブルグ効果を抑える物質は、マリアアザミに含まれるシリマリンなど、既に知られているものもありますので、意外に、薬の開発は早いかもしれません。
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