第73回 若返り薬と言われた成分たちの今 (スペルミジン編)

 

 

 スペルミジンは、分子量が、145.25と比較的小さな有機化合物で、ポリアミンというアンモニアの仲間です。「比較的小さな」と言ったのは、「ポリ」というのは、「たくさん」という意味なので、ポリエチレンとかポリフェノールなどのように、普通は、分子量が数十万以上ある大きな分子なのですが、スペルミジンは、吸収されやすいサイズの有機化合物です。

 

 はっきり言って、あまり有名な物質ではないと思いますが、 「Nature Cell Biology 11 , 1305 - 1314 (2009) Published online: 4 October 2009 」に、論文が掲載されて、その筋の方から注目された物質です。

 

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 ここでは、ヒトの老化中に細胞内濃度が低下する天然ポリアミンであるスペルミジンの投与が、酵母、ハエおよび虫、およびヒト免疫細胞の寿命を著しく延長することを報告している。さらに、スペルミジン投与は、老化マウスにおいて酸化ストレスを強力に阻害した。老化酵母では、スペルミジン処理はヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)の阻害を介してヒストンH3のエピジェネティックな脱アセチル化を引き起こし、酸化ストレスおよび壊死を抑制した。逆に、内因性ポリアミンの枯渇は、過アセチル化、活性酸素種の生成、早期壊死および寿命の低下をもたらした。クロマチンの変化したアセチル化状態は、種々のオートファジー関連転写物の顕著なアップレギュレーションをもたらし、酵母、ハエ、ワームおよびヒト細胞におけるオートファジーを誘発した。最後に、我々は、強化されたオートファジーが、ポリアミンによって誘導される壊死の抑制および寿命の延長に重要であることを見出した。(Natureより)

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 スペルミジンも、例によって、ハエとか酵母とか、細胞レベルの話ではあるのですが、大隅先生のノーベル賞の研究対象であるオートファジー(細胞内の自食作用)の活性化によって、寿命が延びる可能性が示されたということです。

(福岡市立香椎第一中学前にて撮影)


 オートファジーは、細胞のお掃除屋さんで、細胞内をいつもきれいにしてくれる仕組みです。

 

 一般に、ゴミを放置していると、悪臭が発生したり、ハエがたかったりと不衛生になりますが、細胞内でもゴミが溜まると、病気の原因になったり、細胞自体の活動が低下したりと、良いことはありません。

 

 オートファジーという仕組みが活性化すると、故障したミトコンドリア、異常を起こしたタンパク質、劣化した細胞を分解し、バクテリアやウイルスなどは、排出してくれるので、細胞が健全に保たれて、結果的に長寿にも繋がるという事です。

 

 しかも、オートファジーは、集めたゴミで、もう一度たんぱく質を再生(リサイクル)するので、とってもエコな機能でして、食料が乏しい時代でも、人類が生き延びてこれた理由の一つともいえる素晴らしい機能です。

 

 スペルミジンの研究は続いているようでして、加齢による様々な疾患にも効果があるとの報告もありますので、楽しみに待っていましょう!

 

 と言っても、既に待てない状態の方も少なくないと思いますので、今すぐできるスペルミジンの摂取法について、お伝えしたいと思います。

 

 

 

ポリアミンを多く含む食べ物

 

 スペルミジンは、ポリアミンの仲間であることは、先に述べましたが、ポリアミンが含まれている食品は、結構、身近にありまして、納豆やチーズなどの発酵食品に多く含まれているようです。

 

・白子や貝類

・納豆、醤油、味噌などの大豆発酵食品
・チーズ、ヨーグルトなどの発酵食品
・しいたけ、マッシュルームなどのきのこ類
・鶏肉

 

 実は、ポリアミンは、体内でも生合成しており、ポリアミンの原料であるアルギニンやオルニチンも、プトレスシン、スぺルミジン、スペルミンを摂取することでも、ポリアミンを増やすことができます。

 

アルギニンを多く含む食品

・鶏肉

・マグロ

・海老

・大豆製品

・アーモンドなどのナッツ類

・ごま

 

 

オルニチンを多く含む食品

・シジミなど貝類
・魚介類
・キノコ類

 

 ということで、海産物、大豆製品、キノコ類を食べ続けていれば、ポリアミン不足になることは、まずなさそうです。

 

 それにしても、改めて感心するのは、上記の食品の多くは、日本食の食材です。日本人が長生きするのも、わかるような気がします。食の欧米化に飲み込まれないようにしたいものです。

 

 因みに、今回のテーマであるスペルミジンは、精液の原料でもあります。お子さんがほしいと思っている方は、たくさん摂取して頑張ってください!(少子化対策のためにも・・・)