ノルマントン号事件。 | 日常

ノルマントン号事件。


    ノルマントン号事件
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明治19年(1866年)英国船ノルマントン号が、
紀州沖で座礁沈没した際、
船長以下の英国人船員は避難し、
日本人乗客25人が全員死亡した事件の事で、
その事件の事を歌った歌が「ノルマントン号沈没の歌」です。




「ノルマントン号沈没の歌」の歌詞はこちらです。

この歌は59番まであるんですが、
ニコニコ動画に「ボーカロイド 」が歌った歌が、
UPされていたのでどうぞ。




    ノルマントン号沈没の歌


岸打つ波の音高く 夜半の嵐に夢さめて 
青海原をながめつつ わが兄弟(はらから)は何処ぞと

呼べど叫べど声はなく たずねさがせど影はなし 
うわさに聞けば過る月 二十五人の兄弟(はらから)は

旅路を急ぐ一筋に 外国船(とつくにぶね)とは知りつつも 
航海術に名も高き イギリス船と聞くからに

ついうかうかと乗せられて 波路もとおき遠州の 
七十五里もはや過ぎて 今は紀伊なる熊野浦

名も恐ろしき荒波に 乗り出でたるぞ運のつき 
折りしも雨は降りしきり 風さえ添えて凄まじく

渦巻く波を巻きあげて われを目がけて寄せ来たる 
かすかに見えし燈台の 光もいつしか消えうせて

黒白(あやめ)も分かぬ真の闇 水先はかるすべもなく 
乗合人も船人も 思案にくるる瞬間に

岩よ岩よと呼ぶ声の マストの上に聞こゆれば 
あわやとばかり身をかわす いとまもあらで荒波に

打ち流されて衝突の 一声ぼうととどろけば 
さすがに堅き英船も 堪えも果さで打ち破れ

逆巻く波は音高く 機関室へとほとばしり 
凄き声して溢れたり 斯くと見るより同胞(どうほう)は

互いに救い救われて みな諸ともに立ち上がり 
八州船の救いをば 声を限りのもとむれど

外国船(とつくにぶね)の情けなや 残忍非道の船長は 
名さえ卑怯の奴隷鬼(どれいき)は 人の哀れを外に見て

己(おの)が職務を打ち忘れ 早や臆病の逃げ仕度 
その同胞(どうほう)を引きつれて バッテーラへと乗り移る

影を身送る同胞(どうほう)は 無念の涙やるせなく 
溢るる涙を押し拭い ヤオレ憎き奴隷鬼(どれいき)よ

如何に人種は違うとも 如何に情けを知らぬとも 
この場にのぞみて我々を 捨てて逃がるるは卑怯者

思い出せばその昔 俊寛僧都(しゅんかんそうず)にあらねども 
沖なる島の身を投じ 見るも憎しや情けなや

彼は岩なり我は船 みすみす沈む海原の 
底の藻屑となりゆくは いといと易きことながら

家に残れる妻や子や 待ちくたびれし弟妹(きょうだい)の 
我なき後はいかにせん 憂きぞいとぞ思わるる

浮世は仮とはいいながら 常なき者は人ごころ 
昨日の恩は今日の仇 斯かる奴とは露知らず

その信義をば片頼み ついうかうかと大海(だいかい)に 
乗り出でたるぞ恨めしや よしや恨みは残すとも

汝が為せる罪悪は この世のあらん限りには 
などで晴さでおくべきか 右手(めで)に稚子(おさなご)左手(ゆんで)には

老いたる者を助けつつ 悲嘆に沈む涙淵 
伏しつまろびつ泣き入りて 目もあてられぬ風情なり

折りしも一人の少年は 甲板上によじのぼり 
沖なる方を打ち見やり せきくる涙とどまらず

「われ航海の一端も 学び覚えしことあらば 
日頃の技倆(ぎりょう)をあらわして 逃るる術は易けれど

わが同胞(どうほう)の危難をば 捨てて救わでただ一人 
命を惜しむたわけもの 大和心の大丈夫(ますらお)に

嘲り笑わる苦しさよ いざ是よりは潔よく 
みな諸ともにこの身をば 千尋の海に打ち沈め

藻屑とこそは果てなん」と 呼び終わるそのうちに 
無常を告ぐると時の鐘 山なす波に打ちまかせ
 
二十五人の兄弟(はらから)は 無惨や藻屑となりにける 
斯くと知らずや白波を 舟に乗じて船長は

紀伊の浜辺に上陸し 領事庁へと進みいで 
己が過失をおおわんと 非を理にまぐる陳述を

音に名高きホント氏が 何どて知らざる事やある 
固より知りつる事ながら わが東洋に人なしと

日頃の傲慢(ごうまん)あらわして 大悪無道の奴隷鬼(どれいき)を 
無罪放免それのみか アッパレ見事の船長と

褒めはやしたる裁判を 聞いて驚く同胞(どうほう)は 
切歯扼腕(せっしやくわん)やるせなく 世論一時(よろんいちじ)に沸騰し

正は正なり非は非なり 国に東西ありとても 
道理に二つあるべきか ノルマントンの船長の

その暴悪の振舞いは 外国々(とつくにぐに)の人ですら 
その非をせめぬ者ぞなき 乗合多きそのうちに

白晳(はくせき)人種はみな生きて 黄色(おうしょく)人種はみな溺る 
原因あらば聞かまほし 彼も人なり我も人

同じ人とは生まれながら 危難を好む人やある 
いのち惜しむぬ者やある イギリス国の法官よ

汝の国の奴隷鬼(どれいき)は 人を殺して身を逃る 
義務を忘れて法犯す 極悪無道のくせものぞ

これぞ所謂(いわゆる)スローター などて刑罰加えざる 
などて刑罰加えざる 汝が国は兵強く

軍艦大砲ありとても わが国民は知識なく 
国が実に弱くとも 鳥や豚ではあるべきか

是非曲直(ぜひきょくちょく)を知る者を 大和だましいある者を 
二千余年(よねん)がその間 尚武の国と名も高く

外国人(とつくにびと)の侮りを 受けしことさえなきものを 
斯くする法の傲慢(ごうまん)の その裁判におめおめと

従う奴隷があるべきか 汝知らずや我が民は 
恥のためには命をも 義理にのぞめば財産も

捨てて惜しまぬその理(ことわり)は 破船の時の少年の 
挙動を見るさえ知りつらん わが兄弟(はらから)は不常にも

無惨の横死と聞くならば 雲井にかける都人も 
伏屋に宿るしずの女(め)も 六十余州はみなおなじ

己が困苦を打ち忘れ その兄弟は妻子まで 
救わでやまぬ鉄石の 心は同じ敷島の

大和ごころの大丈夫(ますらお)を 道理つめなる論鋒(ろんぽう)や 
その豪気なる振舞いは 岩をも砕くいきおいに

さすがに名高き英人も 傲慢心(ごうまんしん)は打ち破れ 
一旦免せし奴隷鬼(どれいき)を 一言いわさず引捕らえ

ふたたび開く公判に 罪科の所置を定むれば 
二十五人の家族らも 三千余人の同胞(どうほう)も

その公平に感嘆(かんたん)し 積もるうらみも是に晴れ 
波風にわかに沈まりて 残るは元の月ひとつ

いとあざやかに見えにける それを見るにも思いやる 
いまは明治の御治世(おんじせい) 外交とみに繁くなり

国事も日々に多端なり はるかに彼方を見渡せば 
筑紫(つくし)の海は波高く 風さえ強き秋の空

薩摩の国の南には 豺狼(さいろう)の住む国もあり 
用意もなくてうかうかと 吹き流されて破船せば

二十五人はまだ愚か 三千余万の兄弟(はらから)も 
あわれ危難に過るにも まして条約改正の

今にも談判整わば 内地雑居となり来り 
赤髪碧眼(せきはつへきがん)かず多く わが国内に乗り込みて

学問知識を競争し 工芸技術それぞれに 
名誉の淵に乗りいだし 勝負を競う事なれば

油断のならぬ今の時 ノルマントンの沈没の 
その惨状を知る者は 心根たしかに気をはりて

もしも第二の奴隷鬼(どれいき)や なお恐ろしきファントムが 
顕(あら)われいでたる事あらば 三千余万の同胞(どうほう)は

みな諸ともに一致して 力を限り情かぎり 
縦横無尽に憤撃(ふんげき)し それでも及ばぬその時は

生命財産なげうちて 国の権利を保護して 
保たにゃならぬ国の名を 保たにゃならぬ国の名を